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2022年度 第1回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナー (2022年7月19日) ダイジェスト

講演1.「認知症スクリーニング検査アプリの開発とベンチャー企業・医療機器プログラム開発・海外展開」

武田 朱公 (大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学准教授)

 国内では65歳以上の5人に2人は認知症かその予備軍(軽度認知障害(MCI))です。一方で、世界では認知症患者数が加速度的に増加して2050年には1億3千万人を超えるという推定が出ており、特に東南アジアの発展途上国でこの傾向が顕著です。世界の認知症患者の半分は東南アジアに集中しています。

 現在、認知症の簡易スクリーニングとして「アイ・トラッキング」という方法を用いた新しい検査方法の開発とアプリ化で社会実装を進めています。生体センシング技術を使って、安価で簡便で短時間で終わります。さらに、東南アジアの発展途上国では様々な言語が使われていますので、言語依存性が低いことも意識して開発しました。

 認知症は軽度認知障害(MCI)の期間が非常に長いのが特徴です。このMCIの段階で放置してしまうと認知症を発症し、治療が手遅れになってしまいます。一方で、この段階で気づいて効果的な介入を行えば、改善、または認知症になるタイミングをかなり遅らすことができます。

 臨床の現場では認知機能を計るために問診を行ってスコアー化する「MMSC」や「長谷川式検査」などが一般的で、点数によって重症度を見ます。数値が下がっている場合にはMRIや血液バイオマーカー検査で最終的に診断がつき、原因疾患をタイプ分けして治療が始まっていきます。

 「MMSE」は世界でもっとも使われている問診検査で、11項目30点満点となっています。しかし、緊張している高齢者の方にこのような質問をするのは、質問する側もされる側もストレスがかかります。さらに、する側は時間的な制約や、手順・採点基準に経験や知識が必要となります。ただし、これを行わないと認知症のアセスメントは始まりません。つまり、問診の段階に認知症治療を妨げる一番大きなボトルネックがあるのではないかと考え、ここをデジタルテクノロジーやセンシングの技術で解決できる方法が今日ご紹介する「アイトラッキング法」です。

 患者さんには3分間画像を見ていただくだけで、患者さんは質問に答える必要もなくストレスがありません。さらに、アイトラッキングをベースにした認知機能スコアは、MMSEと非常に高い相関を示すこともわかっており、従来の問診での検査を置き換えることができることが医学的に証明されています。

*2018年の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のSTARTというプログラムに採択され、2019年には大阪大学発ベンチャーである「Ai-BrainScience」を設立しました。また、昨年にはプログラム医療機器としての治験も大阪大学で無事に終了し、医療機器の承認申請も終わっています。

*2019年に抗加齢医学会の第1回ヘルスケアベンチャー大賞をいただき大きな弾みになりました。簡単に認知機能をはかれるツールということで、医療の領域とヘルスケアの領域を統一的につなぐシステムとして、運転免許の高齢者適性検査の簡略化や海外展開なども視野に、医療外のパートナーとの共同開発・社会実装も進めています。

講演2.「大学連携で取り組むペプチド創薬」

中神 啓徳(大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座教授)

 将来の遺伝子治療に大きな可能性を感じられていた20年ほど前、偶然30個のアミノ酸からなる両親媒性という新規のペプチドを同定し機能を解析していました。このペプチドには血管新生に活性があるのですが、一方で、薬剤耐性菌にも抗菌作用があり、皮膚の線維芽細胞を活性化したり、傷を早く治したりといった多面的な効果があるユニークなペプチドだということが分かりました。

 医薬品化を見据えて同じくらいの活性が出せる20個のアミノ酸に短くすることに成功し、スプレー製剤を作って開発を進めました。ペプチドの最適化からCMC(製剤開発)、動態試験、非臨床試験、臨床試験と進んでいき、途中で創薬ベンチャーが起業されさらに製薬企業の投資、企業治験の実施へと進んでいきました。

 DNAワクチンの研究開発にも並行して取り組んでいます。この分野は最近RNAワクチンという先駆的な技術が入ってきましたが、ペプチドを使ったアミロイドβワクチンはすでに臨床成績があります。

 ウイルスやがんといった、体から完全に排除したいものに対してのワクチン開発は盛んに行われていますが、免疫寛容を持つ体内のタンパクに対しても、抗体誘導が可能であるということがわかってきました。現在、自己タンパクに対する抗体だけを誘導するワクチンを産学連携で研究開発を進めています。

 生活習慣病の患者さんには厳格なガイドラインに沿って複数の薬剤を使いますが、これをワクチンに切り替えられると、ポリファーマシーや薬剤アドヒアランスなどの面でも患者さん側へのメリットは大きく、社会貢献ができるのではないかと思います。また、コレステロールを下げるワクチンの開発では、中性脂肪やコレステロールが下がったり脂肪肝が治癒したりすることが分かってきています。

 高脂肪食で老化T細胞が増えたマウスに対するワクチンを設計したところ、老化T 細胞の増加が抑えられ、さらに糖尿病も改善されました。新しい老化細胞の標的分子に対するワクチンでも、老化細胞除去に成功しました。

 大学には社会貢献、社会還元が求められており、経済的、社会的、公共的価値を提供してイノベーションを起こすことが重要になってきています。

講演3.「アンチエイジングからのイノベーション」

   坪田 一男(株式会社坪田ラボCEO)

 2022年6月、お陰様で坪田ラボを上場することが出来ました。アンチエイジングの枠組みの中でいろいろとチャレンジしてきたおかげと感謝しています。

 坪田ラボは“ご機嫌”をキーワードにしています。ご機嫌になると寿命も延びますし、生産性も高くなりますし、離職率も低くなるし、売り上げも上がることが分かっています。ご機嫌をキーワードに、眼科領域において世界でトップを張れる革新的なイノベンションを起こす慶応義塾大学発のベンチャーが坪田ラボです。

 ドライアイや近視、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性など、眼科の疾患のほとんどは加齢性です。近視は子供の病気と思われるかもしれませんが、モレキュラーメカニズムとして成長する時に使われるMトールシステムが、実は老化でも使われていることが分かってきました。つまり成長と老化は同じようなメカニズムを使っています。老化を研究することは、成長を研究することにもなります。

 20年前にホモサピエンスがアフリカの草原で生まれてから1万年前に農業が始まって簡単な家屋ができても、人間は1日中外にいました。しかし、200年前から産業革命が起こって都市が発展してくると屋内生活の時間が一気に増えました。100年前にエアコンが登場し、10年前にエアコンが安くなると、人間は家の中に入ってしまいました。

 バイオレットライトには近視を抑制する効果があることが、初めて明らかになりました。しかも、バイオレットライトは部屋の中には全くありませんので、部屋の中で過ごしているとバイオレットライトを浴びることはできません。窓は紫外線と一緒にバイオレットライトもブロックしてしまいます。実は、生命に目ができたのは5億3千400年前のカンブリア紀です。生命は20億年の間、目がない状態で光を使っていました。人間は9つの光の受容体をもっていますが、4つが見るためで残り5つは非視覚系です。ブルーライト問題というのは色の問題ではなく、光の受容体を正常な時間以外に刺激してしまうことによって睡眠障害やうつといった健康問題を引き起こすことです。

 バイオレットライトは色ではなく、波長でOPN5という光受容体を活性化し、それが目の血流を改善して近視を治します。眼鏡は紫外線カット使用ですので、バイオレットライトもカットしてしまいます。

 目からアンチエイジングをすることによって体を健康にしようという新しいイノベーションが起きつつあります。日本発の外貨を稼げる産業にしていこうということで、イノベーション委員会でその流れを作っていきたいと考えています。

講演4.「第4回ヘルスケアベンチャー大賞について」

福田 伸生(バイオ・サイト・キャピタル株式会社、ヘルスケアベンチャー大賞事務局)

 2019年から始まりましたヘルスケアベンチャー大賞は2022年で第4回となります。日本抗加齢医学会と日本抗加齢協会との共同事業で行っております。後援として三井不動産、LINK-J、読売新聞、協賛としてオールアバウトケアネット、太陽生命少子高齢研究所、バイオ・サイト・キャピタルの皆様にご協力をいただいております。

 ファイナリストは企業5社、個人3名で9月5日に発表予定、最終選考会は10月21日15時~17時に室町三井ホール&カンファレンスにおいてハイブリッド開催を予定しています。今年は、先般株式を上場しましたサスメド株式会社の代表取締役社長、上野太郎氏にご講演をお願いしております。

 今回の募集テーマは「アンチエイジングからイノベーションを」です。

 審査基準はインベンション、コマーシャライゼーションの他に、社会貢献性を加えて複合点で優劣を判定させていただきます。

 大賞、学会賞を受賞した方々には、来年の第23回日本抗加齢医学会総会のシンポジウムでの発表の機会を設けさせていただきます。また、ファイナリストに残られた企業には企業展示も行っていただけます。

 昨年の最終選考会には、ベンチャーキャピタルや証券会社、銀行、製薬会社関係の方々が200名以上視聴いただきました。 今年も是非多くのご参加をお待ちしています。

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