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第22回 日本抗加齢医学会総会 会長講演「心身ともに若々しさを保つアンチエイジング科学とエビデンス」講演動画

会長講演 

2022年6月17日(金) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 13:30~14:10
座長:山田 秀和(近畿大学アンチエイジングセンター

脳のアンチエイジングと見た目のアンチエイジング

阿部 康二
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

 時間の経過とともに起きる老化は地球上の生命すべてに与えられており、地球そのものあるいは宇宙ですらその運命から逃れることはできない。一方、酸素を有効活用してエネルギーを享受している全ての生命は、誕生の瞬間から酸素毒性の十字架も同時に背負って生きて行くことに運命づけられている。従ってアンチエイジングとは、このような時間と酸化

 ストレスという二つの要素で進行して行く老化を抑えることであり、そのためには時間を止め酸化ストレスを抑えることが重要である。

 脳は酸化ストレスに弱い臓器であるため、脳の病気は老化と関連が深いものが多く、アルツハイマー病やパーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などがその代表として有名である。演者は長年このような酸化ストレスと脳障害と脳のアンチエイジングの研究に関わって来て、その研究成果を2001年にエダラボンによる世界初脳梗塞脳保護薬として、また2015年に世界初ALSの脳脊髄保護薬として、さらに2019年以降には抗酸化サプリメントの基礎的ならびに臨床的研究の成功に結実させてきた。

 近年のAIを用いた筆者らの研究により、脳のエイジングに関係ある一部の疾患は見た目のエイジングも進んでいることが解明されつつあり、見た目のアンチエイジングと脳のアンチエイジングとの重要な関係性についても研究が進められている。

理事長提言

2022年6月18日(土) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 11:00~11:30

座長:阿部 康二 (国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)

老化治療のための戦略を考える

山田 秀和 日本抗加齢医学会理事長  近畿大学アンチエイジングセンター

 “老化は病”と提言をしている。2022年からWHOのICD-11を用いて、疾患統計が進められようとしている。老化関連XT9Tのサブコードがふられ、いずれ、行政官たちも老化関連疾患として、がんや心血管疾患や認知症を認識する時期が来る。次のICD-12には、老化は基本コードに入ることになろう。抗加齢医学の究極はPPKであり、健康寿命の延伸には、

 “老化のコントロール”と”若返り“の2つの対応法を進めることになる。つまり、運動・栄養・精神(脳・睡眠)・環境・治療と多くの介入を研究・実践してゆく必要がある。ブルーゾーンの1つである沖縄の方々の昔のライフスタイルを学んでみることも有用だろう。

 本学会としては、対応指針(ガイドライン)の策定中であるが、策定中に議論になったことは、老化評価の問題であった。がんのようなステイジングがないため、介入判定のエンドポイントが死亡率となると、現実的に治験ができない状態となっている。今後は、老化評価(老化のステイジング)が必要となろう。今年度から、委員会を作って策定準備に入りたい。そのバイオマーカーの一つがEpigenetic Clockを含むAging Clock である。この領域の進歩が早いことから、抗加齢ゲノム委員会での学習も会員にとっては大変重要であろう。

 SDGsの目標を掲げ2021年からWHOの”agingと戦う“ 活動がスタートしたが、世界中から心配されているように、日本が最も老化問題に対応すべき国家である割には、老化研究は再生医療も含めて資金が不十分である。老化研究と実践においては、一般社会への“老化が病”という理解と産業界からの資金導入が急務である。

教育講演1 

6月18日(土) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 9:00~9:30
座長:清水 孝彦(国立長寿医療研究センター老化ストレス応答研究 PT

細胞老化の過去、現在、未来~ワイスマンから慢性炎症除去まで

近藤 祥司
京都大学医学部附属病院高齢者医療ユニット

 歴史的に、細胞の寿命に関する知見は、老化研究に大きな影響を与えて来た。1891年、最古の老化研究者ワイスマンは、「細胞は分化状態から解放されれば、老化しない」という仮説を提唱した。カレルらは、細胞培養実験の黎明期に、ワイスマンの仮説を支持する知見を報告した。のちに、ヘイフリックによる複製老化が発見され、カレルらの知見は否定された。ヘイフリックの発見は、テロメアとテロメラーゼの研究に発展し、一方、ストレスによる老化(SIS)はテロメア独立事象として知られるようになった。老化誘導シグナルは、癌抑制遺伝子p53やサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害p16 Ink4aなどの細胞周期制御因子を含む。これらは、テロメアと同様に、細胞老化のバイオマーカーとしてよく利用されてきた。

 さらに、近年基礎老化研究の進展により、従来の老化の基本概念である「非可逆性」や「有害性」が見直されつつある。老化の再定義の必要性とともに、老化制御の可能性が指摘される所以である。例えば、テロメア長計測技術により、老化度に対する生活習慣改善の重要性が確認された(テロメア・エフェクト)。あるいは、カロリー制限仮説に端を発し、NADの前駆体物質であるニコチナマイドモノヌクレオチドNMNの健康効果が注目を浴びている。さらに細胞老化の両面性の発見により、老化細胞からの炎症性サイトカイン分泌が細胞老化関連分泌形質SASPを介して慢性炎症の原因となることが判明した。その結果、加齢性疾患の新規治療法の可能性として、慢性炎症除去薬(抗IL-1抗体薬)や、老化細胞除去薬(セノリシス、抗Bcl-2阻害薬)が見出された。かつては夢物語であった、老化制御の可能性が現実味を帯びつつある。

教育講演2

6月18日(土) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 9:30~10:00
座長:布村 明彦(東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科)

ダイレクトリプログラミング技術の多様な神経疾患への治療応用

山下  徹
岡山大学大学院脳神経内科

 これまでに我々はダイレクトリプログラミング法を用いて皮膚線維芽細胞から神経系細胞(iN細胞)を直接誘導する実験系を確立し、マウス皮膚線維芽細胞より直接的に誘導されたiN細胞を脳梗塞マウスモデルに細胞移植を行い、その治療効果と安全性を報告してきた(Yamashita et al., Cell Transplant., 2017)。さらに、脳梗塞マウス脳内グリア細胞から脳内で直接的に神経系細胞を誘導することにも成功し報告している(Yamashita et al., Sci. Rep., 2019)。 ただ、これまでの導入方法では、脳定位固定装置下でウイルスを脳実質内に注入するため、侵襲が大きく、投与範囲も限定的であった。そこでこの問題を解決するために現在当科ではAAV-PHP.eBと呼ばれる血液脳関門を容易に通過できる。アデノ随伴ウイルスベクターを用いることで、経静脈的投与で脳内グリア細胞を神経系細胞に高効率に直接的誘導をする新規in vivoダイレクトリプログラミング法の開発を進めている。この経静脈的投与によるin vivoダイレクトリプログラミング法の有効性や発展性、また脳梗塞だけでなく他の認知症や神経変性疾患への治療応用への展望を議論したい。

教育講演3 

6月18日(土) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 10:00~10:30
座長:野出 孝一(国立大学法人佐賀大学医学部内科学講座)

血管不全と抗加齢医学

吉田 雅幸
東京医科歯科大学先進倫理医科学分野

血管不全とは、血管という極めて多彩な臓器の包括的な機能障害(血管機能障害)を表す概念であり、心血管疾患の治療や予防にとって重要なターゲットである。これまで主として基礎医学の血管生物学として、血管機能を調節する分子やタンパク質の同定や、血管の恒常性とその破綻というコンテキストで学問が発展してきたが、最近では、FMD,RH-PAT,

baPWV,CAVIなど臨床的に血管機能を測定することができるようになり、心血管疾患の病態と血管機能との関連についても詳細に検討することができる時代となってきた。

“Longevity is a vascular question, man is only as old as his arteries”「ひとは血管とともに老いる」と19世紀の著名な病理学者W.オスラーが看破したように、血管機能と老化現象は密接に関連していることは以前より知られている。動脈硬化症に代表される血管不全状態は加齢が大きなリスク因子であり、従って心血管疾患も加齢によって増加する疾患群である。一方、がんは加齢とともに増加することは知られているが、がん組織の成長には新たな血管新生が不可欠であり、従って血管新生を抑制することががん化学療法の手段として実臨床に取り入れられているという側面もある。

昨年、この血管新生と抗加齢について興味深い研究成果がScience誌に発表されている(Science (2021)373, 533-541)。この論文では、加齢に伴う血管機能低下はVEGFシグナル減弱による血管供給低下だと考え、その原因として可溶性Flt1の増加が関与していると仮説をたて、AAVを利用したVEGF増加が寿命を延ばし、sFlt1の過剰発現が種々の臓器

による老化を促進することを示した。このことは、血管の老化が個体全体の老化のドライバーであることを示し、前述のオスラーの名言を文字通り証明したことになる。

このように血管不全が誘発する老化・加齢を抑制する意味でも血管新生・血管再生は重要な意味をもつものである。

教育講演4

6月19日(日) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 11:20~11:50
座長:柳瀬 敏彦(医療法人社団誠和会牟田病院)

長寿社会におけるテストステロン測定の意義と補充療法の可能性

堀江 重郎
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科・遺伝子疾患先端情報学

 テストステロンとその代謝物の作用は広い。成人においては、テストステロンは筋肉の量と強度を保つのに必要であり、また内臓脂肪を減らし、造血作用を持ち、また性欲を起こす。 テストステロンは集中力やリスクを取る判断をすることなどの高次精神機能にも関係する。一方テストステロン値が低いとインスリン感受性が悪く、メタボリック症候群 になりやすく、また性機能、認知機能、気分障害、内臓脂肪の増加、筋肉量の減少、貧血、骨密度の減少を生じ、男性のQOLを著しく低下させる。 成人男性のテストステロン値が低下することによる症候を late onset hypogonadism (LOH症候群)と呼ぶ。60歳以上の男性の約20%はLOH症候群の可能性がある。したがってLOH症候群は実は男性に極めて多い疾患である。テストステロンが低いと、活力と性機能が損なわれ、フレイル・サルコペニアのリスクが高まりQOLに大きな影響を与える。また死亡リスクが高くなる。LOH症候群の治療の基本はホルモン補充療法(ART)である。ARTにより、筋肉量、筋力、骨密度、血清脂質プロフィール、インスリン感受性、気分性欲、健康感の改善が認められる。ARTにより前立腺癌が生じることは短期的には少ない。ARTはADLの向上や生活習慣病の予防、介護予防に働く。テストステロンレベルのスクリーニングと治療のエビデンスについて詳しく紹介する。

教育講演5

6月19日(日) 第1会場(5F メインホール(大ホール)) 11:50~12:20
座長:望月 善子(医療法人もちづき女性クリニック)

アンチエイジングを意識した女性の健康包括的支援

平池 修
東京大学医学部附属病院女性診療科 准教授

 抗加齢医学とは「加齢という生物学的プロセスに介入を行い、加齢に伴う動脈硬化や、がんのような加齢関連疾患の発症確率を下げ、健康長寿をめざす医学」であると、本学会HP上で定義されている。女性は加齢に伴い、特に周閉経期以降にいわゆる更年期症状が出現するだけでなく、高血圧を含む心血管系異常、脂質異常症、骨粗鬆症、生殖尿路系疾患、認知症などといった退行期疾患の頻度が増加し、それまでは男性と比較してもこれら疾患発症頻度が低かったものが、一気に男性の疾患頻度に追いつき凌駕していく。

 生殖可能年齢女性の身体防御的機転を司る物質として最有力候補は、女性ホルモン・エストロゲンである。エストロゲンの生理的作用に関する知見と、女性の健康を年齢・時期に応じて考えるライフコースアプローチは大変重要である。ライフコースアプローチは、治療介入効率を上げる一手段であり、その実践とは、各種リスク因子に対する防御を積極的におこなうことであり、それにより健康を維持するための効率を上げることが可能となり、それ以降の世代において好影響が波及するものと考えられる。

 エストロゲンは、加齢に伴いその分泌が減少するが、外因性にエストロゲンを投与するホルモン補充療法をおこなうことで、身体における好影響が期待出来る。エストロゲン投与は健康長寿を目指す上で重要であるが、副作用の懸念も考慮しなくてはならないため、各種分子生物学的知見、疫学的知見などを総合的に考えながら理知的に行う治療手段となる。

 本講演においては、エストロゲンの作用、周閉経期以降の女性のアンチ・エイジング治療としてのホルモン補充療法と、その他のエストロゲンに関連した治療手段などについて概説する。

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