第8回抗加齢内分泌研究会 開催報告     2016年9月4日

テーマ:メタボエイジングとホルモン

場所:秋葉原コンベンションホール
会長:伊藤 裕
(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌内科教授)

 第8回抗加齢内分泌研究会は、2016年9月4日(日曜日)に秋葉原コンベンションセンターにて開催された。「メタボエイジングとホルモン」を研究会のテーマに掲げ、ホルモンによる代謝制御の乱れが加齢を促進するとの観点のもと、基礎医学から臨床医学にわたる新潮流について、8人の演者からご講演頂いた。活発な意見交換のなかで、加齢現象に関する理解が一層深まったものと確信している。過去最高の217名の参加者を得て、研究会が大いに盛り上がったことに御礼申し上げたい。

 午前の部では、基礎研究ないしは臨床医学で素晴らしい業績をあげられている4名の若手演者から、代謝と老化に関連した基礎研究の最新知見と、その知見の臨床応用についてご講演頂いた。最初に木村郁夫先生(東京農工大学)から、腸内細菌とメタボエイジングと題して、腸内細菌や腸管ホルモンがエネルギー代謝に与える影響と、加齢に伴う腸内細菌の変化が糖脂質代謝に与える影響について解説頂いた。腸内細菌が産生する酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸が、肥満・糖尿病の発症に深く関連することから、腸内細菌の制御が、加齢に伴う代謝疾患の新しい治療戦略となることが示唆された。清水逸平先生(新潟大学)から、褐色脂肪とメタボエイジングと題して、加齢に伴う代謝疾患とその合併症の発症における褐色細胞組織の意義についてご紹介頂いた。加齢に伴う血管密度の低下が褐色細胞の脱分化を介してインスリン抵抗性の発症に関与すること、直接経口抗凝固薬(DOAC)が多彩な作用を発揮して加齢に伴う疾患を抑制することなど、循環器内科学の観点からの、新しい加齢制御法の可能性を示された。

 続いて糖尿病臨床の最前線で活躍中の若手医師である、田畑先生, 矢部先生から、実臨床における食事療法の、抗加齢医療への応用についてご講演頂いた。田畑光久先生(北里研究所病院)から、糖質制限とメタボエイジングと題して、糖尿病が加齢要因となるメカニズムについて、幅広い関連から解説頂いた。糖質、脂質、蛋白の制限それぞれが糖尿病の臨床経過に与える影響を詳述され、代謝疾患克服に向けての糖質制限の重要性について、特に重点を置いて示された。矢部大介先生(京都大学)から、食べる順番とメタボエイジングと題してご講演頂いた。喫食に伴い分泌される腸管ホルモンが、糖代謝に与える影響について解説頂いた。主食である米飯の前に副食の魚や肉を食べることで、腸管ホルモンであるGLP-1やGIPの分泌を介して食後血糖の上昇を抑制できることを示され、腸管ホルモンの制御で加齢現象が抑制できる可能性を論じられた。

 特別講演は、老化表現型の原因遺伝子であるα-klothoの発見者で、日本の加齢研究の第一人者である鍋島陽一先生(先端医療振興財団)のご講演が行われた。“健康長寿の実現を目指した老化研究の推進”と題して、最近の加齢研究の進歩をご教授頂いた。加齢関連分子の立体構造や生理機能に関する、新しい解析手法を活用したご自身の新知見を発表された。我が国の老化研究の進歩を実感できる、大変興味深い内容であった。

 午後の部では、臨床医学のそれぞれの専門分野におけるリーダーである、益崎先生、村井先生からの講演を賜った。糖尿病代謝学がご専門の益崎裕章先生(琉球大学)から、内分泌からみたメタボエイジングと題して、肥満患者の食欲亢進における脳内報酬系の役割と、過食の成立に関与するホルモンの作用を詳述頂いた。健康長寿社会の実現に向けて、脳科学の観点から過食機構を制御することの重要性を説かれた。益崎先生のご講演の流れを継いで、精神科学がご専門の村井俊哉先生(京都大学)から、食行動異常における脳内報酬系の役割について、脳科学のより専門的な観点からの解説頂いた。肥満を来す食物依存の形成機構やその評価法についてご講演頂き、過食という漠然とした概念の科学的な捉え方について、実際の研究データから、わかりやすくご教授頂いた。

 最後に、学術集会会長の伊藤裕(慶應義塾大学)から、臓器記憶とメタボエイジングと題して、臓器障害から老化に至る過程における、細胞代謝とホルモンの役割について解説した。加齢に伴う臓器障害の進行に、それまでに生体が受けた、高血糖や過食などの代謝ストレスの“記憶”が果たす役割を、多様な疾患におけるエビデンスに基づき示した。必ずしも目に見える変化としては現れない“臓器の記憶”への介入が、生活習慣病と加齢性疾患の克服に重要であると考えている。

 今回の研究会を通して、教科書だけでは得られない抗加齢医学の最新知見について、大変貴重な情報を得ることができた。お忙しい中、素晴らしい講演にご尽力頂いた演者の先生方に重ねて感謝申し上げたい。研究会では、これまでの科学では十分解明されていない加齢現象について、ホルモンによる代謝制御の観点から議論を試み、加齢現象における腸内細菌と循環器系の役割、食事の影響、そして摂食行動の脳科学的観点からの解析に関して、これまでにない次元での理解を共有することができた。研究会で得られた情報が、ご参加頂いた皆様の中で、新しい実を結ぶことを祈る次第である。


第8回抗加齢内分泌研究会 プログラムはこちらから[PDF]


第7回抗加齢内分泌研究会 開催報告     2015年9月6日

テーマ:ホルモンと健康長寿

場所:東京大学伊藤国際学術研究センター
会長:秋下 雅弘先生
(東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)

秋下 雅弘先生
第7回抗加齢内分泌研究会は、2015年9月6日(日)、東京大学伊藤国際学術研究センター(東京都文京区)において開催された。お天気にも恵まれ、また赤門脇の新しい建物という立地もよかったのか、過去最高という190名が参加した。
今回は「ホルモンと健康長寿」をテーマに、超高齢社会を迎えた我が国にとって何より必要な健康長寿をどう達成したらよいかのヒントを得るべく、各種ホルモンとの関係について、トップランナーの研究者6名に講演いただいた。



小川 純人先生

最初に、小川純人先生(東京大学大学院医学系研究科加齢医学)が「ホルモンとフレイル」と題し、オーバービュー的な講演を行った。要介護状態の前段階であるフレイル(Frail)は、身体的問題の他に、認知機能障害などの精神的問題、社会的問題までを含む多面的な概念であるが、アンドロゲンやビタミンDなど様々なホルモンと関連が深いことが示された。



笹子 敬洋先生

次に、笹子敬洋先生(東京大学システム疾患生命科学による先端医療技術開発)から「インスリン・IGF-1シグナルとサルコペニア」について講演があった。インスリン・IGF-1シグナルは、下等動物で示されているように長寿という点では必ずしも有利な因子ではないが、インスリン抵抗性やそのシグナル分子Aktの欠損があるとサルコペニアになることを遺伝子改変マウス等の研究から示した。


新井 康通 先生
午前の最後は、新井康通先生(慶應義塾大学病院百寿総合研究センター)による「百寿者におけるホルモン動態」の講演であった。この10年で5倍に増えていると言われる百寿者を対象とした長年の疫学研究の成果を示しつつ、百寿者には糖尿病と動脈硬化が少なく、善玉アディポカインのアディポネクチンが多く分泌されていることが特徴として挙げられると強調した。



米川 忠人 先生

午後は、米川忠人先生(宮崎大学医学部神経呼吸内分泌代謝内科)による「消化管ホルモン(特にグレリン)と健康寿命について」の講演で再開された。グレリンは摂食亢進、筋肉量増加、抗炎症、神経細胞分裂など多面的な作用を有することが知られるが、フレイルやサルコペニアの治療薬としても期待できることが示された。



川戸 佳 先生

続いて、川戸 佳先生(順天堂大学医学部泌尿器科)から「脳内性ホルモンと神経機能」と題して、脳海馬でテストステロン、エストロゲンが合成されること(ニューロステロイド)、神経シナプス成長因子として働き、スパインの形成に作用することが示された。



北村 真吾 先生

最後に、北村真吾先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部)から「睡眠・概日リズム調節とホルモン」について講演があり、概日リズム障害では、体内時計周期が異常に長くなっており、メラトニン分泌リズムも後退していることなどが示された。 振り返ると、健康長寿とその裏返しであるフレイルには非常に多くのホルモンが関わっていることがわかり、本研究会の重要性が証明された会となった。


第7回抗加齢内分泌研究会 プログラムはこちらから[PDF]


第6回抗加齢内分泌研究会学術集会     2014年9月7日

テーマ:脳とホルモン(神経伝達物質)

 

会長:柳瀬 敏彦
(福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科教授)


第6回抗加齢内分泌研究会は2014年9月7日(日)に鶴見大学会館において開催された。
今回、「脳とホルモン(神経伝達物質)」というテーマを基礎・臨床にわたる最新知見も含め、統合的に理解を深めることを目的として企画した。第一部は「行動の脳内基盤」というサブテーマで3人の先生にご講演いただいた。


東田陽博氏(金沢大学子どものこころの発達研究センター)には自閉症におけるオキシトシン濃度の低下を背景にした疾患の分子基盤、並びにオキシトシン点鼻による治療の試みと現状をわかりやすく紹介いただいた。
続いて高橋英彦氏(京都大学大学院精神医学)には、我々の意思決定や種々の依存症に脳内神経伝達系がどのように関わっているかについてご紹介いただいた。


瀧 靖之氏(東北大学加齢医学研究所、機能画像医学研究分野)は、脳MRIのデータベースから見た脳の発達に関する新知見を加齢と性差の観点から紹介された。全脳灰白質は男女とも加齢により萎縮し、女性では閉経後より顕著になること、男性の内臓脂肪型肥満ではその萎縮の程度が強まること、運動により海馬体積が増加することなど、生活習慣との相互作用も示唆される興味深い知見が報告された。


第二部はサブタイトル「脳内ホルモンと臨床」と題し、臨床的観点からの講演が行われた。

岩崎泰正氏(高知大学臨床医学部門)より視床下部-下垂体-副腎系を中心とするストレスの古典的概念の紹介に始まり、現代社会ではむしろストレス応答系の過剰活性化がメタボリックシンドローム(MetS)、糖尿病をはじめとする生活習慣病の発症に繋がっていることを自験成績も交え紹介した。次に安藤真一氏(九州大学病院睡眠時無呼吸センター)は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の実態と対策に関する講演を行った。SASによる心血管系や代謝系への悪影響を紹介すると同時に、CPAP等によるその顕著な治療効果についても言及した。また、SASにおける間歇的低酸素が、覚醒物質のオレキシンレベルを亢進させ、睡眠の質の悪化に拍車をかけている可能性も紹介した。


荒木 厚氏(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)は、最近、注目されている糖尿病と認知症の関係を詳述した。認知症は糖尿病の罹病期間やコントロール不良状況と関連すること、インスリン抵抗性により脳内でのインスリン作用を弱めてしまう生活習慣や大きな血糖変動が、認知症のリスクになること等を紹介した。また認知症治療の可能性として点鼻インスリンの有効性やインクレチン製剤がβアミロイドやリン酸化タウの蓄積に抑制的に作用する可能性についても言及した。


秋下雅弘氏(東京大学医学部附属病院老年病科)は、加齢に伴う性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン)の低下が認知症発症に関連している可能性を論じた。また、パイロット的な臨床研究からはヒトにおける認知機能の改善に性ホルモン補充が有効である可能性が提示された。脳科学はアプローチの難しさもありヒトにおけるエビデンスはいまだ十分とは言えないが、今回の研究会を通じて、この分野の進歩と可能性を十分に認識することが出来た。

アンチエイジングではストレス対応、健康観、生き甲斐、睡眠、認知症といった諸問題に対する理解と対応が極めて重要である。今後、「脳とホルモン(神経伝達物質)」はアンチエイジング医療の新しい切り口となることが期待される。

第5回抗加齢内分泌研究会学術集会     2013年9月1日

テーマ:メラトニンおよびメラトニンアゴニスト ―基礎と臨床―

 

会長 加藤 晴康
(立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科准教授)


画像

第5回抗加齢内分泌研究会は2013年9月1日(日曜日)に立教大学池袋キャンパス(東京都豊島区)において開催された.今回はメラトニンシリーズ第3回として「メラトニンおよびメラトニンアゴニスト―基礎と臨床―」というテーマで,実際にメラトニンを診療で使用されている先生方の貴重な臨床経験の報告を中心として,現在と今後のメラトニンについて活発な意見交換が行われた.

まず,特別講演は折茂肇氏(健康院理事長,骨粗鬆症財団理事長)による「ヒトは骨と共に老いる」であり,先生の長年のテーマである「骨粗鬆症」に関して、最新の知見を織り交ぜながら分かり易くお話して頂いた. 主題に入り,第1部は「メラトニンおよびメラトニンアゴニストの基礎」として始まった.まず,服部淳彦氏(東京医科歯科大学)が,メラトニンの基礎的知識やこれまで蓄積されたメラトニンに期待される多彩な効果に関する知見を提示された.次に,内川治氏(武田薬品工業株式会社)が,メラトニンのアゴニストであるラメルテオンの開発秘話について熱く語られた.

第2部は「メラトニンおよびメラトニンアゴニストの臨床」というテーマで3名の講師が,メラトニンアゴニスト(ラメルテオン)およびメラトニンの臨床使用の経験を紹介した.内村直尚氏(久留米大学)は,メラトニンおよびラメルテオンの不眠治療に関する豊富な臨床経験があり,その臨床データを紹介された.田村博史氏(山口大学)は,卵子の加齢予防効果としてのメラトニンの効果について講演された.米井嘉一氏(同志社大学)は,アンチエイジングとしてメラトニンの臨床応用を行っており,その豊富な経験を報告された.

最後の第3部「メラトニンおよびメラトニンアゴニストの今後」として,三村正文氏(ノーベルファーマ株式会社)より,ヨーロッパで発売されているメラトニン徐放剤(Circadin)の詳細な臨床データが紹介された.また,鈴木信雄氏(金沢大学)は,破骨細胞抑制効果と骨芽細胞促進効果をあわせ持つ,新規メラトニン誘導体であるブロモメラトニンを開発し,それを用いた宇宙実験について紹介された.

第5回内分泌研究会は,3回目のメラトニン特集ということでメラトニンの臨床応用を主題として行われた.多くの先生方が,メラトニンに興味を持ち,メラトニンを臨床応用したいと切望していることが感じられる研究会であった.

今後,メラトニンの作用に関してエビデンスのある基礎データを集め,ヒトに対する有効性を調べる研究を続けることにより,メラトニンの臨床応用への発展がなされるものと思われる。

第4回抗加齢内分泌研究会学術集会     2012年9月2日

テーマ:内分泌からみた生活習慣病

 

会長 米井 嘉一
(同志社大学大学院生命科学研究科アンチエイジングリサーチセンター教授)


第4回抗加齢内分泌研究会は2012年9月2日(日)、東京医科歯科大学講堂(東京都文京区)において開催された。残暑が残る中、昨年を上回る113名の会員が参加した。今回は「内分泌からみた生活習慣病」というテーマで、ホルモン分泌を切り口としてみた生活習慣病の分析を試みのもとに講師陣を招き、活発な討議ならびに意見交換が行われた。柳瀬敏彦ならびに会長がプログラムオーガナイザーを務めた。

生活習慣病を防ぐことは、アンチエイジングを実践するうえで重要なことです。第4回学術集会では、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、骨粗鬆症などの生活習慣病をホルモン異常の観点からとらえてみたいと考えた。メラトニン、DHEA、成長ホルモン/IGF-Ⅰは抗加齢内分泌研究会が特に注目しているホルモンであり、生活習慣病を克服する上でも重要な役割を果たすと予測される。またストレス過多の現代社会ではストレス起因性精神神経疾患に遭遇する機会が増えてきた。アンチエイジング医療実践する中で、ストレス指標になるか?!として、DHEA-s値とコルチゾール値比の比較と相関についてデータに基づく臨床検討をしたいと思う。これら生活習慣病に関連するホルモン作用の理解と生活習慣病の予防について教育講演、シンポジウム、ディスカッションをプログラムし、内分泌研究の最新の知見を習得し、議論する機会としたい。

はじめに竹内靖博先生(虎ノ門病院内分泌センター)が「ホルモンと骨代謝」の演題で、講演された。サブクリニカルCushing症候群と骨粗鬆症の関連。甲状腺ホルモン過剰症、高プロラクチン血症に起因する骨密度の低下。抗利尿ホルモンの低Na血症を介した骨量減少。副甲状腺機能亢進症と骨折。これまで知らなかった様々なホルモンが骨代謝に関わることが示され、今後、骨粗鬆症の予防と治療に応用できる有用な情報が得られた。

続いて、西田 滋先生(日本大学医学部生体機能医学系生化学分野)が「メラトニンの糖代謝と脂質代謝への影響」について報告した。前回の第3回集会ではメラトニンに焦点が当てられ、睡眠への関与、抗酸化作用、骨代謝への作用、卵巣への作用が報告されたが、今回さらにメラトニンが糖脂質代謝にも深く関与するという。2型糖尿病実験モデルではメラトニンが高インスリン血症を改善し、ラ氏島細胞の負担を軽減、結果として糖尿病の発症と進展を予防することを示した。また、メラトニンがコレステロールを低下させる作用を動物実験により証明した。一般に、加齢に伴い糖脂質代謝が変化して、インスリン抵抗性の増大、LDL上昇傾向を認めるが、その一部にはメラトニンの分泌低下も関わっているかもしれない。

午前最後の演題は山田祐一郎先生(秋田大学医学部内科学講座内分泌・代謝・老年医学分野)による「インクレチンとストレス」であった。2型糖尿病治療薬としてインクレチン関連製剤の登場から3年が経過したところで、インクレチンに関する基本情報、膵作用・膵外作用について学んだ。グルカゴン様ペプチド-1 (glucagon-like peptide-1, GLP-1) およびグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド (glucose-dependent insulinotropic polypeptide, GIP)の2種類のインクレチンの産生部位、作用部位、作用の違いについても最新情報を提供して頂いた。飽食の時代においてはGIPシグナルを遮断した方が肥満を抑制し、寿命が延びる可能性があることも改めて理解できた。

本会では伊藤 裕先生(慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科)による教育講演「臓器は若返る-ホルモンの威力」が開かれた。臓器の若返りを考える上で重要な血管機能、ミトコンドリア機能に焦点を当て、一酸化窒素(NO)、ナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP)、cGMP、レニン・アンジオテンシン系との関わりについて話をされた。また心腎連関、筋肉腎連関といった臓器連関。減量手術、metabolic surgeryに伴うインクレチン動態の変化ならびに糖尿病治療成績。大変多岐にわたる興味深い内容であった。

次の演題は柳瀬敏彦先生(福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学)による「副腎機能評価としてのコルチゾール」であった。グルココルチコイドの作用と感受性の個人差、サブクリニカルCushing症候群とメタボリックシンドロームの類似性、慢性副腎機能低下症およびサブクリニカルAddison病の病態、コルチゾール補充法に関する最新情報が提示された。

最終演題は、坂根直樹先生(国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター予防医学研究室)による「ストレスホルモンと運動」であった。運動時のストレスホルモン分泌動態とその機能、スポーツ中毒やオーバートレーニング時の指標、心身ストレスを減らす効果的な運動方法、肥満や運動不足による酸化ストレスの増大といった項目について切り口からの運動の話は、大変参考になった。

集会最後に臨床データを用いたパネルディスカッション「ストレス指標になるか?!コルチゾール値とDHEA-s値の相関、比較について検討する」が開かれた。テーマを選んだ背景には、ストレス過多の現代社会では心身ストレスが生活習慣病に及ぼす影響は無視できず、ストレス起因性精神神経疾患に遭遇する機会が増えてきたことが挙げられる。秋下雅弘先生(東京大学医学部加齢医学講座)、田中 孝先生(田中消化器科クリニック)、池岡清光先生(池岡クリニック)、米井嘉一によるデータ教示がなされ、アンチエイジング医療実践する中で「DHEA-s、コルチゾール、DHEA-s/コルチゾール比がストレス指標になるか否か?」について臨床検討がなされた。「DHEA-s/コルチゾール比」との関連が高かった項目のうち、睡眠や抑うつに関する自覚症状、血清LDLコレステロール、HbA1c、IGF-Iにパネラー間での共通性がみられた。秋下先生は「DHEA-s/コルチゾール比に意義を感じる」、田中先生は「年齢別解析が重要」、池岡先生は「男性ホルモンとの関連はみられず」との意見であった。

積極的な討論に参加した出席者の皆様、そしてパネラーとして発表された先生方には、かなり無理を言って、限られた時間の中で臨床データを解析し貴重な情報提供されたことに感謝したい。

今回の研究会を通し、生活習慣病に関連するホルモン作用の理解と生活習慣病の予防について教育講演、シンポジウム、パネルディスカッションを企画、内分泌研究の最新の知見を習得し、議論する機会となった。教科書などで周知のホルモン以外にも様々なホルモンが生活習慣病に関与することを改めて確認した。心身ストレスおよびストレス関連ホルモンについても、生活習慣病に深く関わっているにもかかわらず、未だ情報不足であることを知った。今後、身体における各種ホルモンの動態、加齢に伴う変化について理解を深め、本会により得られた知見がアンチエイジング医療に役立つことを切に願う次第である。

第3回抗加齢内分泌研究会学術集会     2011年9月4日

テーマ:メラトニン研究の最近の進歩と医療への応用 の開催報告

画像

 

 

会長 里村 一人
(鶴見大学歯学部口腔内科学講座教授)


第3回抗加齢内分泌研究会は2011年9月4日(日)、鶴見大学会館(横浜市)において開催された。前日、台風12号が四国から近畿にかけて上陸、縦断したため西日本での交通網の麻痺による参加人員の減少が懸念されたが、昨年を上回る104名の会員が参加し、会場は熱い熱気に包まれた。今回は「メラトニン研究の最近の進歩と医療への応用」というテーマで、各分野から最先端のメラトニン研究に携わる講師陣を招き、活発な討議ならびに意見交換が行われた。

まず服部淳彦氏(東京医科歯科大学)が「メラトニンとは(オーバービュー)」と題し、講演された。メラトニンは概日リズム調整ホルモンとして知られるが、近年、強力な抗酸化作用を持つことが報告され、骨代謝や中枢神経系に対する作用、抗腫瘍作用などさまざまな生理作用が明らかにされつつある。マウスを用いた研究でメラトニンがフリーラジカルや活性酸素を消去し、延命効果を示すこと、また加齢性記憶障害を抑制することなどからアンチエイジングホルモンとして働くことが示され、今後、認知症患者の治療への応用などが示唆された。


本研究会の今回の担当校である鶴見大学から「口腔顎顔面領域におけるメラトニンの働き」について報告した。

会長の里村は「歯の発生とメラトニン」の関与につき講演を行った。ヒト歯胚を用いた免疫組織化学的検索でメラトニン受容体が分泌期エナメル芽細胞、中間層細胞、外エナメル上皮と分泌期象牙芽細胞に存在し、新生仔マウスの切歯でもその発現様式が同一であるとの知見を示した。近年、メラトニンが骨芽細胞の分化や骨形成の促進に関与することが明らかにされたが、顎骨の成長とその内部で進行する歯の形成・発育を協調的に制御するメカニズムのひとつとして、メラトニンが関与する可能性を示唆した。


下間は唾液腺組織にメラトニンの合成酵素が発現していることを明らかにし、唾液中のメラトニンが唾液腺由来であることを示した。さらにその合成に経時的変化を認め、何らかの制御機能が働いていることを示唆した。メラトニンの抗酸化作用や免疫賦活作用を考慮すると唾液中のメラトニンは口腔環境の健全性の維持や粘膜疾患の防御因子として働くことが推察される。また口腔粘膜上皮にメラトニン受容体が存在することも示し、これを介する何らかの作用も期待できることから、メラトニンを口腔粘膜疾患の治療または予防薬として使用できる可能性を示した。


画像

午後は江面 浩氏(筑波大学)により「植物とメラトニン」と題する教育講演が行われた。メラトニンは植物中にも種を問わず広く存在し、抗酸化作用と植物ホルモンの一種であるオーキシン様作用を持つことが知られる。トマトを用いた実験ではメラトニンは種子や実生に多く蓄積し、葉や果実の発達に従って蓄積量が変化することが示された。またメラトニンの前駆物質であるAANATやOsIDOを添加することにより蓄積量が増加し、動物と同様の生合成系が存在することが示された。メラトニンがヒトに対する機能性物質であるため高含有の農作物を作ることにより、ヒトの健康維持に役立つ可能性が示唆された。


画像

服部淳彦氏(東京医科歯科大学)、池亀美華氏(岡山大学)、矢野幸子氏(JAXA)および鈴木信雄氏(金沢大学)のグループは「骨とメラトニン」と題し、国際宇宙ステーション「きぼう」で行われた宇宙実験を中心に報告した。まず発生学的見地から魚鱗が骨のモデル実験系として使用できることが示され、これを宇宙で培養し破骨細胞に対するメラトニンの効果をみたところ、微小重力下で活性化した破骨細胞の働きをメラトニンが抑制するとの知見が得られた。さらに新規メラトニン誘導体であるブロモメラトニンを用いた動物実験では破骨細胞を抑制する効果に加え、骨芽細胞を活性化するとの知見も得られ、将来、骨粗鬆症の治療薬として使用される可能性が示唆された。


「放射線とメラトニン」と題したセクションでは2名の講師により講演がおこなわれた。

安西和紀氏(日本薬科大学)は「放射線の生体障害とメラトニンの防御効果」について報告した。まずESRスピントラッピング法を用いてメラトニンのフリーラジカル消去活性を測定したところビタミンEやカテキンより低いものの活性を有し、in vitoで・OHを消去することを確認した。マウスの頭部にγ線照射を行い、ニューロン障害をみた実験では、メラトニンを与えた群では神経再生の指標であるKi-67およびDCx陽性細胞が有意に増加し、また酸化ストレスのマーカーである8-OHdGならびに4-HNE陽性細胞が有意に減少した。これによりメラトニンが放射線によるneurogenesisの阻害を軽減し、放射線防御に働くことが示された。

物部真奈美氏(独立法人農業・食品産業技術総合研究機構)は子宮がんや前立腺がんの放射線治療に近傍の腸管が障害され放射線性腸炎を起こすという観点から「放射線性腸障害に対するメラトニンの効果」について報告した。マウスにメラトニンを投与後、
γ線照射を行い、腸管1周あたりのクリプト数が10個になる線量のdose reaction factorを調べたところ、放射線療法保護剤として用いられているアミフォスチンに匹敵する効果を有することが示された。またクリプトの減少抑制は濃度依存性であることを示した。この結果メラトニンが放射線照射による腸管障害の副作用を軽減する治療薬として利用できる可能性を示唆した。

小林陽一氏(杏林大学)は「がんとメラトニン」について報告した。ヒト子宮体癌由来培養細胞株を用いてメラトニンの抗腫瘍効果をみた研究で、ER(エストロゲン受容体)陽性Ishikawa細胞においてメラトニンが増殖を抑制し、さらにERの発現を低下させた。その効果はメラトニンの生理的濃度(10-9M)で最大であった。またIshikawa 細胞にはメラトニン受容体(MT1)が存在し、細胞増殖抑制効果はMT1受容体を介して行われることが示唆された。さらにメラトニンの添加により抗悪性腫瘍薬のパクリタキセルの殺細胞効果が増強されることが示され、今後のがん治療への応用の可能性が示唆された。


画像

田村博史氏(山口大学)は産婦人科医の立場から、メラトニンが卵巣内に発生する活性酸素から卵を保護するとのデータを示し、不妊症治療に応用することにより受精率を向上させる有効な治療法であることを示した。


米井喜一氏(同志社大学)はアンチエイジングホルモンとしてのメラトニン機能の知見を示し、投与により患者のQOLの向上につながることを報告した。


今回の研究会を通し、メラトニンの研究が様々な分野で進められていることを改めて確認した。今回発表された内容はエビデンスに基づき、臨床応用を見据えたものですべてにおいて大変興味深いものばかりであった。一方、すでに臨床に応用した報告もありこれらのデータの蓄積によりさらにメラトニン研究が発展することが望まれる。メラトニンの多様な機能と副作用の少ない点を考慮すると、今後、各種疾患の治療薬として応用範囲のさらなる拡大が期待される。

「第2回抗加齢内分泌研究会 (DHEA特集)」の開催報告

画像

 

 

福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科
柳瀬敏彦


第2回抗加齢内分泌研究会は本年9月5日(日)に「DHEA」を特集テーマとして福岡大学医学部臨床大講堂にて開催され、90余名の参加者は、猛暑に負けない熱い討議をくりひろげた。

この会のオーガナイザーである柳瀬が「DHEA(-S)とは?」と題するオーバービュー講演を行った。DHEAは性ステロイドの前駆体としての意義と同時にDHEA固有の作用が存在するが、受容体の存在も含めいまだ明確な作用機序が不明であること、加齢で漸減低下する血中DHEA-S値は老化指標であると同時に、国内外の前向き疫学データから少なくとも男性では長生き指標にもなり得ることなどを紹介した。 DHEAの抗糖尿病、抗動脈硬化、抗骨粗鬆症、抗痴呆効果などについて概説した後、各論の講演に移った。2型糖尿病モデルではDHEA投与により耐糖能、インスリン抵抗性が改善する。

上芝 元氏(東邦大学内科)、福井道明氏(京都府立医科大学内科)は動物モデル及びヒトにおいて糖尿病状態により血中DHEA-S値が低下し、治療により同値が改善上昇することを示し、副腎への可逆的糖毒性の可能性を指摘した。福井氏はさらに「スタチン投与により糖尿病の新規発症が増加する」との最近の報告に関連して、スタチンによるDHEA-S産生抑制の可能性について言及した。


河野宏明氏(佐賀大学循環器内科)はDHEAには明確な血管内皮機能改善作用があること、心臓自身から産生されるDHEAには心筋肥大抑制効果があり、心不全時にはその分泌が減少することからDHEAには心保護的作用があるとの知見を提示した。


続いて鈴木 静氏(博愛会ウエルネス天神)は血中のDHEAは骨芽細胞に発現するアロマターゼを介してエストロゲンに変換され骨保護に作用する機構を紹介した。また疫学的には高齢女性へのDHEA補充は再現性をもって骨密度を増加させること、またDHEAとビタミンDの併用投与はさらに有望な骨粗鬆症治療となる可能性を紹介した。実験レベルではDHEAの神経保護作用が知られているが、認知機能、ADLに及ぼす効果については、臨床的には明確ではない。


画像

秋下雅弘氏(東京大学老年病科)は虚弱高齢女性における血中DHEA-S濃度は高いほど、総死亡リスクが低いとの興味深い知見を発表した。また要介護高齢者の基本的ADLは女性ではDHEA-S値と相関性を認め、男性では遊離テストステロン(FT) 値との間に強い相関性を認めた。認知機能は男性ではFT値、DHEA-S 値との間に相関性を認め、FT値との間により強い相関性を認めているが、女性では有意の因子を認めなかった。また軽度認知症の高齢者へのDHEA補充により軽度の認知機能の改善を認めたと報告した。生殖機能に及ぼすDHEAの効果についてはほとんど不明である。


画像

徳永義光氏(ALBA OKINAWA CLINIC)は卵胞の適切な発育にはアンドロゲンが重要であることを紹介し、早発卵巣不全(閉経)症19例においてカウフマン療法にDHEAの併用投与を試み、血中FSHの有意の低下、5例で排卵を認め、3例では妊娠に成功したとの知見を紹介した。
最後のセッションでは小規模ながらDHEA補充療法の成績が3氏より紹介された。


柳瀬は11人の健常中高年男性(平均年齢55歳)へ25mg DHEA補充を6ヶ月間行い、HbA1C値、adiponectin、骨代謝マーカーなど種々の生活習慣病関連マーカーを調べた。血中DHEA-S値は服用で有意に上昇したが、各種パラメーターはいずれも経時的に有意な変動を認めなかった。しかしながら、血中DHEA-S濃度よりも血中テストステロン濃度とadiponectin, HOMA-R, 遊離脂肪酸との間に相関性(インスリン感受性を上昇させる方向)を認め、DHEAはTへ変換後、糖代謝改善の方向に作用している可能性を示唆した。

米井嘉一氏(同志社大学)は、ホルモン年齢という概念を提唱し、血中DHEA-S値の絶対値評価と同時に個人の経年的変化度からDHEA補充を行う重要性を強調し、個人によってはDHEA服用により極めて顕著なQOLの改善や骨密度の増加を認める症例があることを報告した。また運動によって血中DHEA-S値が上昇するとの成績を示した。 また田中 孝氏(田中消化器クリニック)はアンチエイジングドックの中で45歳以上DHEA1000ng/ml以下の対象者(n=13)でDHEA10-25mg/日の補充を行い、血中DHEA-S値の上昇と同時にE2, テストステロンの上昇を認め、同時にプロゲステロンの上昇を観察した。服用者では体重の有意な低下が認めたが、身体、心面でのスコアの改善や血中IGF-1の改善は認められなかった。以上、各氏の発表内容は、ユニークかつ貴重で、小規模ながらDHEAに関する独自の臨床データが着実に集積されつつあると感じた。

高齢女性における骨粗鬆症や虚弱高齢者へのDHEA補充療法や早発卵巣不全患者へのDHEA投薬治療などは有効性に関する有望なエビデンスも集積されつつあり、少子高齢化の現代において、今後、一層の関心と広がりをもって展開されるべき領域であると感じた。


第2回抗加齢内分泌研究会プログラムはこちらpdf

学術集会開催履歴

第1回抗加齢内分泌研究会レポート(2009年9月6日)pdf