タンパク質摂取の有効性の是非~フレイル時の栄養摂取~
- 学会誌ダイジェスト
- 2020年7月17日
加齢によって俊敏性が失われて転倒しやすくなる「フレイル」は、筋量と筋機能の低下(サルコペニア)が大きな要因になります。その改善策の1つとしての「タンパク質摂取」の有効性の是非を考えてみたいと思います。
日本人の食事摂取基準(2020年版)で示される体タンパク質維持に必要なタンパク質は,65歳以上の高齢者の場合1日あたり約1.0g/体重1kgとされています。
日本における65歳以上の高齢女性を対象に,タンパク質とアミノ酸の摂取量と虚弱との関連を調べた研究では,総タンパク質摂取量は,虚弱と有意に逆相関しています。また,4編の論文についてのシステマティックレビューにおいても,1.0g/kg 以上のタンパク質摂取はサルコペニアの発症予防に有効である可能性が指摘されており,「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」においても推奨されています。また、米国で行われた2,000人以上の高齢者を対象とした3年間の追跡調査においても,タンパク質摂取量と骨格筋量の減少とが負の相関を示し,タンパク質をもっとも多く摂取していた群は,タンパク質摂取量がもっとも低かった群と比較して骨格筋量の低下を約40% 抑制したと報告されています。
骨格筋は身体においてもっとも大きな組織で,体重の30〜40%を占め、フレイルの改善・予防のみならず,高齢者全般の健康維持においても、もっとも重要な組織です。骨格筋を構成するタンパク質は常に合成と分解を繰り返しており,食事摂取によってタンパク質が補われることでバランスがプラスに移行し,筋量が維持されています。
食事に含まれるタンパク質はアミノ酸として血中に取り込まれ,筋細胞内に運び込まれ,必要とされる際にそこから骨格筋の合成に利用されます。このタンパク質摂取による筋タンパク質の合成刺激は量が多ければ多いほど効果がありさらに合成速度も増加します。特に高齢者は若年者と比較して,骨格筋のタンパク質合成を刺激するために必要なタンパク質の量が増加することを考えると,特に高齢期には積極的にタンパク質を摂取する必要性は明らかだと思います。
後期高齢者が介護を受ける原因の一つにフレイルがあげられ,この予防が喫緊の課題となっています。フレイルの予防には運動や生活習慣など本人の認知行動変容が必要で,従来のガイドライン頼りの医療から「語りの医学」への転換が行われています。フレイルの原因はprotein-energy malnutrition(PEM)ですが,日本ではタンパク質摂取のみが強調されて、エネルギー源摂取が忘れられています。人間の身体はエネルギー源が足りないと、筋肉を分解してアラニンからグルコースをつくり、血糖のレベルを保ちます。つまり、タンパク質だけでなく糖質,脂質を含めたバランスが取れた摂取が求められます。
長年の長寿村,短命村の研究によると,漁村のようにタンパク質摂取が多いと若い頃は筋骨隆々としていても,皆若死にすることが報告されています。これは観察研究ではありますが、強力なヒストリカル・エビデンスとなります。タンパク質源を明確にした質的・量的介入研究が行わないかぎり,「動物性タンパク質を摂ろう」という指針にはかなりバイアスがかかってきます。
近年,CKD(慢性腎臓病)患者における慢性炎症がタンパク質・エネルギー消耗および死亡率と関連していることがわかり、炎症のバイオマーカー(IL-1β,IL-1受容体拮抗薬,IL-6,TNF-α,CRP,フィブリノーゲン)が糸球体濾過量(GFR)と逆相関することが証明されています。 また、タンパク質の多い食事を摂ると,腸内で悪玉菌が増え,便も臭気の強いものになることも分かっています。例えば、食物繊維が豊富な大豆をタンパク源として活用し,やはり食物繊維や微量元素が摂れる玄米などを積極的に摂取することで腸内環境を良好に保つことが大事です。さらに、最近の高齢者層の透析患者の増加をみると,フレイル予防に高タンパク食を用いるのは相当慎重に考えねばならず、許容上限はBUN 15mg/dL 以下と考えられます。
※この内容は、2020年5月発売の「アンチエイジング医学 2020年4月号(Vol.16 No.2)」に掲載された「誌上ディベート フレイルに高タンパク食は必要か? 不要 VS 必要」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください
https://www.m-review.co.jp/magazine/detail/J0038_1602
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