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肝臓を「鍛える」×「鍛えない」の是非

肝臓の役割というと、代謝・解毒・合成といった化学工場としての機能と胆汁分泌といった外分泌機能の2 つが真っ先にあげられる。
肝臓が老化するとは? 病的老化を引き起こす危険因子を除去することは勿論第一に肝臓にとってプラスになるように鍛えることと、そっとしておくほうががよいという対極を解説していただいた。

肝臓は鍛えたほうがいい 「是」の立場から

齋藤 英胤  慶應義塾大学薬学部薬物治療学教授

 老化に伴い肝細 胞数は減少しますが,その減少を食い止めるためには少しでもできることがありそうです。病的老化を引き起こす危険因子を除去することは勿論第一に考えなくてはならないことです。動脈硬化などで血流が減少することは 肝臓への酸素供給を減らし,細胞の破壊を促進しますので,動脈硬化を予防することは肝臓を鍛えることになると考えます。

 肝臓はアミノ酸を元にアルブミンというタンパク質を作りますが、高齢になって肝細胞数が減ると、タンパク質を摂ってもアルブミンの生産能が落ちて血中アルブミン値が低下して栄養や薬、酸素等の運搬能力が落ちるだけでなく、肝血流量や薬物代謝能も低下して血管から間質に水分が漏出して全身のむくみの原因にもなります。

 食事や飲酒などの生活習慣によって,知らないうちに老化因子によって肝発がんの危険を増やしている可能性があることも指摘されており、日常生活では、高脂肪食を避けて繊維質を摂り、腸の調子を整えて肝臓内の炎症や脂肪肝、動脈硬化を予防することで「肝臓を鍛える」ことが重要と考えます。

肝臓の鍛え方

  • 過栄養・運動不足を避けて脂肪肝を作らない(あるいは脂肪肝は 直ちに改善する)
  • 動脈硬化を予防する・食物繊維を摂取する・腸を整える
  • 胆汁酸組成を変える(善玉であるウルソデオキシコール酸を服用する)

肝臓は鍛えない方がいい 「非」の立場から

米井 嘉一 同志社大学大学院生命医科学研究科アンチエイジングリサーチセンター/糖化ストレス研究センター教授

高部 稚子 同志社大学大学院生命医科学研究科アンチエイジングリサーチセンター/糖化ストレス研究センター

 肝臓の役割は代謝・解毒・合成といった化学工場としての機能と胆汁分泌といった外分泌機能、そしてIGF-1を産生する内分泌臓機能の3つがあります。運動や睡眠の質の向上,タンパク質・アミノ酸の適正摂取によってIGF-1は上昇しますが,これらは肝臓を鍛える訓練法というよりも脳下垂体刺激法に位置づけられます。

 運動による血清IGF-1増加も可能ですが、肝臓そのものを鍛えてIGF-1を上げる方法は存在しないと考えてよいと思います。また、多量飲酒は肝臓に負荷をかけるのみです。

 肝臓は人体における最大の臓器であり、その潜在予備能力は極めて高く20%程度機能すれば生命を維持できるとされています。したがって、加齢に基づく機能低下は潜在能力に比べて小さく、また、さまざまなデータを総合すると、加齢による肝機能の低下は他の臓器に比べて軽微であり,積極的に鍛える必要性は感じられません。また,肝臓の代謝機能、外分泌、内分泌を改善させる訓練方法も存在しません。

※この内容は、「アンチエイジング医学 2015年10月号(Vol.11 No.5)」に掲載された「誌上ディベート 肝臓を鍛える?鍛えない?」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください

なお、日本抗加齢医学会会員の方には、学会誌(年6回発行)を全てお届けしております。

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