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第18回日本抗加齢医学会総会 会長講演 A2E:Anti-Aging Environmentに込めた思い

第18回日本抗加齢医学会総会会長
一般社団法人日本抗加齢医学会
副理事長 山田 秀和
近畿大学医学部奈良病院皮膚科教授,
近畿大学アンチエイジングセンター副センター長

A2E とは?

 2018年度開催の第18回学会総会のテーマ「A 2 E : A n t i – A g i n g Environment」には、アンチエイジングの環境、アンチエイジングのための環境、そして環境因子によるアンチエイジング、とさまざまな意味が込められています。

人生100年時代の現実
 私が19年前に初めて「アンチエイジング」という言葉を聞いた時、一番インパクトがあったことはMichael Janson, M.Dの「ビタミンレボリューション」でした。彼が「これからのアンチエイジング研究は、どのようにして死ぬかを研究してください」と言ったことも強く記憶に残っています。メメントモリ(memento mori)という言葉をご存じでしょうか。この言葉には2つの考え方があり、1つは、今日は勝ったが明日は負けて死ぬかもしれないという考え方、もう1つは、どうせ死ぬならこの瞬間を楽しく暮らそうという考え方です。ニュースでも紹介されていましたが、2018年5月、104歳になるオーストラリア人のデービッド・グッダルさんがスイスに行って安楽死を選びました。その理由が「100歳を過ぎてから生きているのが楽しくなくなった」ということ。わたし自身は、楽しくいつまでも元気に生きていたいと思うので、非常にショックでした。
 92歳で改めてマレーシアの首相になったマハティールさんは、“マレーシアをもう一度輝く国にする”という使命をもって選挙に立ちました。92歳でも健康でやる気さえあればこのようなことができる時代になったといえます。彼は、92歳で非常に若々しく見えます。東南アジアの国々では美容整形の高い技術を持った医師が多いと聞きますが、美容皮膚科の医師という立場で写真を見る限り、明らかに手が加わっていると思います。今後は100歳になっても、健康であれば外観に少し手を加えて、選挙に立って勝つことができる、まさに人生100年時代になっているということだと思います。

さまざまな暴露を受ける私たち 「環境」に注目

 20世紀で治療医学はある程度行き詰まり、21世紀に入って予防医学の時代になり、現在は「ハピネスをどうやって求められるのか?」に焦点が集まっています。堀江重郎理事長が提言されている「ハツラツ」もまさにそのことであり、これがアンチエイジングの最終目標です。抗加齢医学はもともと予防医学であり、横断的なものです。医学は、医学部だけのものでなく、全ての領域を含み、いかにそれを実践するかを常に考えることが重要です。
今は、運動や食事といった医学以外の領域がベースとなっているアンチエイジングも、今後は、さらに新しい領域を足していくことが重要で、ここに私は「環境」を加えたいと思います。私が言う環境は、「どのような条件で将来にわたって暴露されるのか」ということです。赤ちゃんから歳をとって死に向かう間、ずっと環境暴露があります。アンチエイジングというと高齢者が対象というイメージがあるかもしれませんが、むしろ、受精した瞬間にエピゲノムがリセットされることを考えると、受精した瞬間からアンチエイジングを考えていく必要があります。
 私ども皮膚科領域の対象である、シミやしわなどに関しても早い段階から紫外線に対するレスポンスとジェネティックバックグランドがあるのは必然です。遺伝子と環境因子が関係して最終的に我々の身体が出来ていると考えることが自然で、そのインタラクションが最も重要です

Precision Medicine時代 エピゲノムトレーナーも不可能ではない

 本講演の座長である塩谷信幸先生が言われたJacques Lucien Monodの「偶然と必然」にもあるように、偶然は必須です。放射線や紫外線によって偶然に自分の遺伝子に傷がつくことは避けられません。遺伝子だけが重要なのではなく、運動、食、精神、環境がエピゲノムに影響して、人間を作っています。今後のアンチエイジング研究は老化の過程を1つ1つ科学で潰していくことになるでしょう。経験値でコンセプトを作る医学から、ここ10年はEvidenced Based Medicine (EBM)が医学の主流となりましたが、EBMで現象を見ることはできても、「一般論は良いけど、私はどうしたらいいの?」という部分に対応ができません。今は、プレシジョンメディスン(Precision Medicine)の時代。ゲノムをベースとして、1人1人の個別医療を行っていくプレシジョンメディシン・パーソナルメディシンが必要で、それこそがこれからのアンチエイジングメディシンになると思います。
 見た目はいわゆる表現型であり、健康を判断するうえで非常に重要な要素です。オーストラリアの研究者の研究では、8つの美の柱として、「若々しさ」、「左右対称性」、「平均性」、「性ホルモンが適切にあること」、「体臭が適切であること」、「動き」、「皮膚の状態」、「毛並み」が挙げられています。見た目は「健康のバイオマーカー」であり、見た目が若いと健康長寿であることが分かっています。
健康寿命を目指すためには、老化に伴った表現型がどのように変化してゆくかといったEpigenomeの理解が必要です。「クラウドでゲノムセンターを作る」「エピゲノムトレーナーなる」といったことも十分可能でしょう。

※この内容は、第18回日本抗加齢医学会総会(2018年5月26日)で発表されたものです。

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