糖質制限の是非について考える −糖尿病患者における最適な食事療法とは−
- 学会誌ダイジェスト
- 2019年4月1日
日本の伝統的な食生活が失われ、食生活が欧米化することにより、糖尿病が増加しています。糖尿病における食事療法として何が有用なのでしょうか。最適な栄養素摂取比率についての科学的根拠はいまだ乏しいのが現状ですが、論争激しい「糖質制限」の是非について、それぞれの立場から考えてみたいと思います。
江部 康二(高雄病院理事長)
3大栄養素の特質上、摂取後,直接血糖に影響を与えるのは糖質のみであり、タンパク質と脂質は直接血糖に影響を与えることはありません。糖尿病合併症のリスク要因として問題とされている食後高血糖と平均血糖変動幅増大を引き起こすのも、3大栄養素のなかで糖質だけです。
日本糖尿病学会では、カロリー制限食を唯一無二の食事療法として推奨し続けていますが、そこに疑問を感じます。いくらカロリー制限をしても、糖質を摂取すれば必ず食後高血糖と平均血糖変動幅増大を生じるからです。従来の糖尿病食を摂取する限り、合併症予防は困難ではないでしょうか。
信頼性の高い久山町研究を見ても、従来の糖尿病食(エネルギー制限・高糖質食)では、糖尿病を増加させることが証明されている他、ACCORD試験においても、厳格糖尿病治療(糖質を普通に摂取してインスリン注射や内服薬で厳格に血糖を管理)によって死亡率が増加するという衝撃的な結果が出ています。その後BMJ 誌で発表されたRCTメタ解析報告をみても、糖質を摂取しながら厳格に薬物療法で血糖コントロールしようとしても、利益はほとんどないことが証明されています。
従来の糖尿病食では食後高血糖と平均血糖変動幅を生じてしまうのは明らかであり、糖尿病合併症予防には糖質制限食がそれらを予防できる可能性は高いと考えます。
宇都宮 一典(東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授)
糖尿病の予防と管理に必要なのは、まず「肥満の是正」です。2型糖尿病における食事療法の目的は、総エネルギー摂取量の適正化によって肥満を解消して,インスリン分泌不全を補完し、インスリン作用からみた需要と供給のバランスをとることで、高血糖のみならず糖尿病の種々の病態を是正することが肝要です。
糖質制限の効用については、かつて肥満治療の食事療法として一大ブームとなり、注目を浴びるようになりましたが、その後発表された多くのメタ解析をみると、糖尿病を対象とした研究では、従来療法に比べ、低糖質食によって3~6カ月の短期間にはHbA1c の低下がみられますが、1年以降は体重もHbA1cにも差異はないと結論づけられています。しかも、糖質制限による体重減少効果が、エネルギー摂取量と無関係とは考えづらいです。
糖質制限に関しては、今後さらなる科学的検証が必要なのではないかと思います。
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※この内容は、2018年7月発売の「アンチエイジング医学 2018年6月号(Vol.14 No.3)」に掲載された「誌上ディベート 糖質制限の是非」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください。
http://www.m-review.co.jp/magazine/detail/J0038_1403
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