Action!

人生100年時代の活力をつくる医学マガジン

アンチエイジング・ゲノム! VOL.1 全ゲノム遺伝子解析が誰でも可能になった!

全ゲノム遺伝子解析が誰でも可能になった!

 遺伝子解析の進化によりヒト全ゲノムが解読され,さらに解析の高速化,費用の低減をもたらしています。

この背景には,半導体を含むIT 技術の想像を超える発展や,next generation sequencer(次世代シークエンサー)などの開発もあります。かつては1人当たりの解析費用は100億円しましたが,20年経った現在は10万円程度まで下がり,個人が自分の全遺伝子を知ることが可能になってきました。

全ゲノム遺伝子解析(whole genome sequence:WGS) は, アミノ酸をコードする遺伝子領域のみならず,遺伝子調節領域や,ゲノム全体の約98%を占める,タンパク質に翻訳されない染色体領域の総称であるノンコーディング領域のDNA 塩基配列を解析するものです。アミノ酸をコードする遺伝子領域の解析(whole exome sequence)からは,疾患の原因となる遺伝子異常,疾患リスク因子となる遺伝子多型,さらには代謝の個人的な違いを知ることができますが,WGSからは顔つき,体つき,声質といった個人を特徴づける身体因子,さらには個人の性格や,心理的な性向も判断しうることがわかってきました。

縄文人のゲノム解析から縄文人の顔がわかってきたのも,頭蓋骨に遺伝子情報が加わったからです。これまでの医学は,疾患の診断と治療を中心にしてきました。感染症の診

断と治療は,我々の平均寿命を飛躍的に伸長しました。その結果,現代ではヒトに与えられた寿命より早死にする原因は,加齢に関係した慢性疾患(がん,血管疾患,炎症)であることがほとんどとなりました。これらの疾患の原因は生命活動によって生じる酸化や 糖化などによる遺伝子の劣化(変異や欠失,修飾)ですが,疾患リスクには遺伝の影響が大きいことがわかってきました。我々が志す抗加齢医学はまさに,遺伝子のchronological な劣化をどのように予防していくかにあります。

Precision Medicine から Precision Anti-Aging へ

 医療は,経験に基づく医療から,集団の利益を科学的に評価するEvidence-based Medicine(EBM)へと変化しました。しかし,新薬でも薬剤の効果がみられるのは投与を受けた患者の一部に過ぎません。そこでオバマ前大統領は,ゲノム情報などのバイオマーカーを活用することで個人に最適な治療を行うPrecision Medicine を提唱しました。たとえば,特定の遺伝子異常をもつがんであれば,臓器にかかわらず,遺伝子異常による酵素活性の異常を抑える薬剤を用いることや,血中腫瘍細胞の遺伝子発現プロフィールより得られた薬剤の効果予測因子に基づいて治療薬剤を決めることが,すでに臨床でも一般的になりつつあります。Precision Medicineは集団の余命に代表されるEBM でなく,個人に最適な治療を行うことを主眼としているのです。

 我々の抗加齢医学においても,たとえば,血清ビタミンD 低値は加齢を促進し,疾患リスクになることが明らかです。しかし,ビタミンD 値が生活習慣に起因するものか,個人の遺伝子環境によるものかを知ることは,まさにPrecision Anti-Aging になるわけです。

WGS を活用した Precision Anti-Aging

 さらには,生体を構成する分子を個別に検討していくだけでなく,WGSを活用したPrecision Anti-Aging が可能になってきました。このランドマークとなる研究を紹介しましょう。ヒトゲノムプロジェクトを,1民間人として立ち上げたクレイグ・ヴェンター氏の率いるHuman Longevity 社は,健康で無症状の209人のWGS と疾患情報(既往歴,家族歴),血液データ,画像データ(全身MRI)を解析し,疾患に関係する個人にユニークな塩基配列(rare monogenic variants) が62人(30%)にみられ,164人(78%)に加齢疾患(循環器,血管,NASH,呼吸器,神経),あるいはそのリスク因子を同定しています(表1)。

 彼らは,予防医療にはWGS が必須であると位置づけています。もちろん,WGS から得られる情報はPrecision Anti-Aging にも不可欠となっていくと思われます。

Participatory Anti-Aging へ

 これまでの疾患治療の開発は,研究機関・医療機関(医師),製薬会社によって保険医療という枠組みのなかで行われてきました。しかし,疾患予防とアンチエイジングについては,むしろこの枠組みを離れた新たなインフラの構築が必要となってくると考えています。この集団の健康知を構築するには,多くの自立した個人の参加が不可欠です。参加型,すなわちParticipatory Anti-Aging では,個人がゲノム情報やウェアラブル端末から得られた生体情報をもとに,よりリテラシーとエビデンスをもってアンチエイジングを行い,満足感のある毎日を寿命いっぱいまで送ることが未来像とされています。

 抗加齢医学のプロフェッショナルである我々は,遺伝情報や生体情報に基づいて,疾患のみならず,ストレス応答,栄養,運動,気分情緒,睡眠といった個別の関心事にアドバイスを与えていくことになります。  Participatory Anti-Aging とゲノムのアンチエイジングを組み合わせたインフラを構築するため,日本抗加齢医学会では広く学会員から希望者を募り,学会員自身のWGS,生体情報,バイオマーカー,画像診断,加齢指標などを組み合わせた「ゲノム・アンチエイジング・コンソーシアム」を立ち上げます(表2)。

●文 献
1) Perkins BA, Caskey CT, Brar P,et al. Precision medicine screeningusing whole-genome sequencing andadvanced imaging to identify diseaserisk in adults. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 ; 115: 3686-91.

※この内容は、2019年8月発売の「アンチエイジング医学 2019年8月号(Vol.15 No.4)」に掲載されたものです。
学会誌をぜひお読みください。
http://www.m-review.co.jp/magazine/detail/J0038_1504

 なお、日本抗加齢医学会会員の方には、学会誌(年6回発行)を全てお届けしております。

POPULAR TAG

タグ

TOP