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脳によいのはグルコース?ケトン体?

脳が使えるエネルギー源「グルコースとケトン体のどちらが脳にとって良いのか」アンチエイジング研究において、カロリー制限を行うとグルコースが減って、ケトン体が産生される。この代謝シフトが様々な健康改善効果をもたらすのではないか?という概念はどうか、解説をいただいた。

「グルコース」の立場から

高田 明和 NPO「食と健康プロジェクト」理事長

 現人類の脳の容量は約1,350ccで体重の2%にも満ちませんが、全エネルギーの24%を使っておりその大部分はブドウ糖によって供給されると考えられています。

脳の毛細血管にはブドウ糖の輸送体であるGLUT1,3が存在しています。GLUT1,3はブドウ糖を多く利用するところに多く発現され、脳の活動が高まるとその部分のブドウ糖の輸送体は高度に発現されるということになります。

ヒトにブドウ糖あるいはインスリンを与えると必須アミノ酸のうちトリプトファンが脳に入り、それ以外のアミノ酸は筋肉などの組織に輸送されると考えられます。

 最近,糖質制限ダイエットの問題が取り上げられ,筋力が低下することが議論を呼んでいますが、ブドウ糖の供給低下が筋肉へのアミノ酸の輸送を減退させ、筋肉のタンパク合成の要素である必須アミノ酸の不足をもたらすためと考えられます。

 ちなみにケトン体は神経細胞に直接供給されますが、ここでも神経細胞,星状細胞にブドウ糖が供給されていることを忘れてはならないと思います。 

「ケトン体」の立場から

植木 浩二郎  国立国際医療研究センター糖尿病研究センター

 ケトン体は,脂肪酸の燃焼産物であるβヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの総称で、絶食や激しい運動などで蓄積されたグリコーゲンが分解されて枯渇すると脂肪酸が分化されて産生されます。

 このケトン体は、インスリン作用不足が著しい場合にケトアシドーシスを引き起こすことから悪者のように考えられてきました。しかし一方で、脳などの臓器でエネルギーとして使われていることは古くから知られています。

 ケトン食が難治性てんかんの予防やアルツハイマー病の進展阻止に有効であるという報告も多くみられるようになっています。そのメカニズムとして,ケトン体が効率的なエネルギー基質となり、シグナル伝達物質や転写調節因子としての機能をもつことも明らかにされてきています。

 正常な脳の発達や認知機能の維持にグルコースが重要な働きをすることには疑いはありませんが、ケトン体がグルコースに代わるエネルギー源として、またHDAC 阻害活性などを介した抗酸化作用を通じて神経保護的な働きをしていると思われます。

※この内容は、「アンチエイジング医学 2017年2月号(Vol.13 No.1)」に掲載された「脳によいのはグルコース?ケトン体?」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください

なお、日本抗加齢医学会会員の方には、学会誌(年6回発行)を全てお届けしております。

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