ブルーゾーン コスタリカ ニコヤ半島に学ぶ、アンチエイジングと長寿
- 学会誌ダイジェスト
- 2026年8月17日

コスタリカは、2026年の「世界幸福度ランキング」で147か国中第4位に選ばれた世界有数の「幸福な国」です(日本は55位)。その背景には、美しい海や熱帯雨林に囲まれた豊かな自然、年間を通じて過ごしやすい温暖な気候に加え、軍隊を持たない平和国家としての歴史、家族や地域の強い絆、充実した医療・教育制度などがあるといわれています。
また、コスタリカは国土の約4分の1を国立公園や自然保護区に指定するなど、世界でトップクラスの環境保全国です。国土は地球全体のわずか0.03%しかありませんが、世界の動植物種の約6.5%が生息するとされる生物多様性の宝庫です。世界の鳥類の約10%、約850種もの鳥類が生息し、幻の鳥と呼ばれるケツァールや色鮮やかなオオハシ(トゥカン)などを観察することができます。また、世界有数のウミガメの産卵地としても知られ、こうした豊かな自然を生かしたエコツーリズムは国の重要な産業となっており、2025年には約269万人の外 国人観光客が訪問しています。
そして、コスタリカには、世界でも特に百寿者(100歳以上)が多く暮らす地域として知られる「ブルーゾーン」の一つ、ニコヤ半島があります。なぜこの地域では健康長寿が実現しているのでしょうか。近年では、食生活や腸内細菌叢(腸内フローラ)、生活習慣、家族や地域とのつながりなど、多方面から長寿の秘密を探る研究が進められている中で、国民はニコヤ半島がブルーゾーンに認定されていることを誇りに思っているそうです。


今回、日本からの研究者によるコスタリカ大学への訪問に際し、在コスタリカ日本国大使館の石橋洋信特命全権大使より、大使公邸での夕食会にお招きいただく光栄に浴しました。当日は、伊藤栄子二等書記官にもご同席いただき、和やかな雰囲気の中で懇談する機会を得ました。 コスタリカの文化や社会、長寿を支える地域特性について理解を深めるとともに、日本における長寿研究や学術交流、さらには今後の両国の連携の可能性について幅広く意見交換を行うことができ、国際交流の意義を改めて実感する大変貴重な機会となりました。

コスタリカを代表する産業の一つが、高品質なアラビカ種で世界的に知られるコーヒー産業です。首都サンホセ近郊にあるコーヒー農園「Hacienda Alsacia(アシエンダ・アルサシア)」を訪問しました。
同農園は世界で唯一のスターバックスが所有・運営するコーヒー農園であり、ビジターセンターを併設するとともに同社のコーヒー栽培に関する研究開発(R&D)の中核拠点として機能しています。
研究成果は自社農園だけにとどまらず、コスタリカをはじめ世界中のコーヒー生産者へ共有されており、小規模農家への技術支援や品質向上、収穫労働者の生活改善にも役立てられています。品質の維持・認証から生産者支援までを一体的に行うこうした取り組みは、スターバックスが掲げる「相互利益(Shared Success)」の理念を具現化したものであり、企業の持続的成長と社会的責任(CSR)の両立を目指す先進的なモデルとなっています。
豊かな自然環境と持続可能な農業を重視するコスタリカの国づくりを象徴する施設としても、大変印象深い視察となりました。
その後、サンホセ市内へ戻り、市民の暮らしを知るため、市街地の中心部にある中央市場(Mercado Central)を訪れました。1880年に開設された歴史ある市場には、新鮮な野菜や果物、肉・魚介類、香り高いコスタリカ産コーヒー、スパイス、工芸品などを扱う店舗が軒を連ね、地元の人々や観光客で終日賑わっている市場を歩きながら、コスタリカの豊かな食文化や人々の日常生活に触れることができました。

挨拶.
ハイメ・フェルナンデス
(コスタリカ大学大学院老年学教授)
石橋 洋信
(在コスタリカ日本国大使館 全権大使)
講演1.「ブルーゾーンとしてのニコヤの隆盛と衰退」
ルイス・ロセロ・ビクスビー先生(人口学者。コスタリカ大学名誉教授)
講演2.「腸内マイクロバイオータと健康長寿 — コスタリカ・ニコヤ半島の百寿者から学ぶ教訓 —」
アドリアン・ピント・トーマス先生(コスタリカ大学医学部生化学教室教授)
講演3.「日本抗加齢医学会の概要、腸内マイクロバイオータと老化経路の連関」
内藤 裕二(京都府立医科大学大学院生体免疫学講座 教授)
講演4.「長寿地域の食事と腸内細菌叢からの教訓 ― 京丹後長寿コホート研究より」
髙木 智久(京都府立医科大学大学院消化器内科学 教授)
講演5.「機能性食品による加齢関連の認知機能および排尿機能低下の改善」
山田 静雄(静岡県立大学薬食研究推進センター センター長)
講演6.「進化的ミスマッチ:都市生活はなぜ加齢を加速するのか」
加藤 雪彦(東京医科大学八王子医療センター皮膚科 教授)
講演7.「炎症加齢(インフラメイジング)とミトコンドリア恒常性 ― 加齢の鍵となる機構」
尾池 雄一(熊本大学大学院生命科学研究部分子遺伝子学講座 教授 熊本大学医学部長)

日本とコスタリカの両国が「健康長寿社会の実現」という共通の課題に直面している。今回のシンポジウムでの議論が健康長寿に関する理解を深める貴重な機会になるだけでなく、得られる知見を健康的なライフスタイルの実践につなげたい。自分自身もコスタリカ赴任後、「プラ・ビダ(Pura Vida)」に象徴される豊かな生活文化から多くを学んでいる。コスタリカの伝統料理であるガジョ・ピントを日常的に食べていることにも触れた。このシンポジウムが日本とコスタリカの新たな学術・研究協力を生み出し、両国の健康増進と相互交流のさらなる発展につながることへの期待を述べた。
日本とコスタリカの両国が「健康長寿社会の実現」という共通の課題に直面している。今回のシンポジウムでの議論が健康長寿に関する理解を深める貴重な機会になるだけでなく、得られる知見を健康的なライフスタイルの実践につなげたい。自分自身もコスタリカ赴任後、「プラ・ビダ(Pura Vida)」に象徴される豊かな生活文化から多くを学んでいる。コスタリカの伝統料理であるガジョ・ピントを日常的に食べていることにも触れた。このシンポジウムが日本とコスタリカの新たな学術・研究協力を生み出し、両国の健康増進と相互交流のさらなる発展につながることへの期待を述べた。

コスタリカ・ニコヤ半島が世界的な「ブルーゾーン」として認定された経緯と、その長寿優位性が近年失われつつあることを最新の研究成果に基づいて解説した。
「ブルーゾーン」という概念は、百寿者が集中する地域を示す言葉としてイタリアのサルディニア島の研究から生まれ、その後ダン・ビュイトナー氏によって世界的に広められた。ニコヤ半島は、コスタリカの厳格な出生登録制度に基づく年齢検証によって、実際に高い長寿性を有する地域であることが確認され、2006年にブルーゾーンとして認定された。
1990年から2011年の統計解析により、ニコヤ地域の高齢者死亡率はコスタリカ国内他地域より約18%低く、特に男性で顕著な長寿性が認められた。60歳男性の平均余命は23.6年、100歳到達率は4.8%と、日本、米国を上回る世界最高水準であった。また、ニコヤ生まれでも地域を離れると長寿優位性が失われることから、遺伝よりも生活環境や地域文化の影響が大きいことが示唆された。さらに、血糖値や脂質代謝、BMI、認知機能、テロメア長などの指標でも良好な結果が認められた。
一方、最新の分析では、かつて顕著だった長寿優位性は縮小していることが明らかになった。1990年代以降、ニコヤの平均余命はほぼ横ばいで推移する一方、日本やコスタリカ国内他地域では寿命が延伸し、その差が急速に縮まっている。現在ニコヤのブルーゾーンとしての特徴が残る地域は、オハンチャやサマラ周辺の約2万5千人規模の地域に限定されており、かつて20万人以上を含んだ広大なブルーゾーンは大幅に縮小した。
ニコヤがなぜ長寿地域となったのか、またなぜその優位性が失われつつあるのかについては、まだ十分な科学的証拠がなく、今後の研究課題であると述べた。そして、ニコヤ、沖縄、サルディニアを継続的に比較・追跡することが、人類の健康長寿の仕組みを解明する鍵になると強調した。

ニコヤ半島の百寿者を対象とした腸内マイクロバイオータ研究の成果を紹介し、健康長寿における腸内細菌叢の役割について話した。
これまで中米地域では高齢者や長寿者を対象としたマイクロバイオーム研究がほとんど行われておらず、本研究はその空白を埋める先駆的な試みである。研究チームは2019年から2020年にかけて、百寿者とその子・孫世代、さらにニコヤ半島と首都圏の高齢者から240以上の便サンプルを収集し、16S rRNA解析やショットガンメタゲノム解析を実施した。
その結果、百寿者では子・孫世代に比べて腸内細菌叢の多様性が有意に高く維持されていることが明らかになった。また、健康長寿と関連する保護的細菌群(善玉菌)が豊富であり、特に抗炎症作用を有するフェーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)や、近年注目される次世代プロバイオティクスであるアッカーマンシア(Akkermansia)が多く存在していた。さらに、有益菌と有害菌(パソバイオント)の比率も百寿者で良好であった。
生活習慣の調査では、百寿者は子・孫世代より睡眠時間が長く、日の出とともに起床し日没とともに就寝する伝統的な生活リズムを維持していた。また、多世代同居や家族・地域との強い結びつきも特徴的であった。研究ではさらに、生存予測指標(ISI)が高い人ほど新型コロナウイルス流行後も生存していることが確認され、その人々は腸内細菌叢の健康度も高かった。認知機能、自立度、心血管リスクなども良好であり、全粒穀物の摂取や家族・動物との共生などの特徴を有していた。メタゲノム解析では、ニコヤ半島の百寿者から世界でも例の少ない独自のAkkermansia系統が発見された。特にAmII系統は健康状態の良好な人々に多く認められ、高いムチン分解能を持つことが示された。これらの菌株は腸粘膜の恒常性維持や慢性炎症の抑制に寄与する可能性があり、健康長寿を支える新たなプロバイオティクス候補として期待されている。
健康長寿の秘訣は単一の「長寿菌」にあるのではなく、多様性に富んだ腸内細菌叢と、それを支える生活習慣・食事・社会的つながりの総合的な環境にあると結論づけた。


司会:
ハイメ・フェルナンデス教授(コスタリカ大学大学院老年学)
パネリスト:
ジョルジナ・ゴメス・サラス博士(コスタリカ大学医学部生化学教室 栄養学)
ノルマ・ラウ・サンチェス博士(コスタリカ大学健康研究所)
内藤 裕二 教授
尾池 雄一 教授
ノルマ・ラウ・サンチェス博士は、2007年から2024年まで実施されたロス・ヘト地区高齢者研究プロジェクトについて紹介した。本研究はコスタリカ大学健康関連研究所の加齢研究プログラムとして、多分野の研究者が連携する学際的プロジェクトである。研究では、地域住民に関する基礎データが存在しなかったため独自に国勢調査を実施し、高齢者の生活実態や支援ニーズを把握した。成果は大学教育にも活用され、老年学、公衆衛生、ソーシャルワークなど多くの学生の研究や実習の場となった。
また、高齢者の生活の質向上を目的としたセルフケア教育や地域啓発活動を実施し、自治体や保健機関に対して地域高齢者の実態データを提供した。国際的には米国や中南米諸国との研究交流やインターンシップを推進し、認知症高齢者の見守り技術など実践的な成果も生み出した。
今後は日本とコスタリカの間で、大学院教育、共同研究、人材交流、学会・ワークショップ開催など幅広い連携が可能であると提案した。
ジョルジナ・ゴメス博士は、ニコヤ半島の百寿者とその子孫を対象とした栄養研究の成果を紹介した。
研究では百寿者、子世代、孫世代を比較し、身体計測、疾病状況、食事内容を調査した。その結果、百寿者は子孫世代よりも食事の多様性が高く、コスタリカ都市部住民と比較しても多様な食品を摂取していたことが明らかになった。
特に豆類の摂取量が多く、これは腸内細菌叢に有益な食物繊維源となっている。また、肉類も適量摂取しており、極端な菜食主義ではなく、さまざまな食品群をバランスよく摂ることが特徴であった。
一方で、子孫世代では肥満の増加がみられ、加工食品やファストフードの影響が懸念された。博士は健康長寿は単一要因では説明できず、食事もその一要素に過ぎないと強調した。
今後は国際共通指標である「Global Diet Quality Score」を用いて、日本とコスタリカの食事の質を比較する共同研究への期待を示した。
内藤裕二教授は、ゲノム解析や腸内細菌叢解析などのオミクス研究だけでは健康長寿を十分に説明できないと指摘した。その上で、日本の長寿研究において重要な概念として、絆(Kizuna)と生きがい(Ikigai)の二つを挙げた。
これらは単なる医学・生物学的要因ではなく、人間関係や社会参加など社会科学的要素を含むものである。
今後の共同研究では、腸内細菌叢や遺伝子情報に加え、社会的つながりや人生の目的意識を評価し、日本とコスタリカの文化的背景を超えて比較検討することが重要であると提言した。また、日本抗加齢医学会としてもコスタリカとの共同研究を全面的に支援する意向を表明した。
尾池雄一教授は、日本とコスタリカはいずれも世界有数の長寿国であり、比較研究の価値が非常に高く、特に興味興味深い点として、ニコヤ半島では男性の長寿性が顕著であり、がん死亡率の低さがその要因の一つと考えられていることを挙げた。日本では女性で長寿が多いため、この違いを解明することは国際長寿研究に大きな意義があるとした。
さらに、日本の大学には国際交流プログラムが多数存在することを紹介し、コスタリカの学生や若手研究者に対し、日本での研究機会や人材交流を積極的に支援したいとの考えを示した。
フェルナンデス教授は討論を総括し、健康長寿研究では遺伝子や細菌そのものではなく、「人間」を中心に据えることが重要であると述べた。
研究成果を教育、研究、社会活動へ還元し、大学間交流や共同大学院プログラムを構築する必要性を指摘した。また、高齢者の幸福や生活の質向上を目標とし、科学的データを政策形成や地域支援へ活用すべきと強調した。さらに、ニコヤ半島の高齢者には内藤先生が述べた「絆」や「生きがい」が自然な形で根付いており、それを国際比較研究の重要なテーマとして発展させるべきであると提案した。

コスタリカ・ニコヤ半島ブルーゾーン協会※1)創設者ホルヘ・エドゥアルド・ビンダス・ロペス氏らのガイドで、現地を2日間視察しました。


※1)コスタリカ・ニコヤ半島ブルーゾーン協会は、コスタリカのニコヤ半島における長寿地域「ブルーゾーン」の保全と研究を推進する非営利団体。地域の文化的・社会的要素が健康寿命に与える影響を調査し、持続可能な生活モデルとして世界に発信しているだけでなく、健康長寿を地域文化の一部として守るモデルを提示し、国際的な公衆衛生や持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目指している。ブルーゾーンの知見を世界に共有することで、健康的で幸福な社会の実現に寄与している。

コスタリカ大学のバスでニコヤ半島移動
当初3時間半と聞いていた移動時間は、道路拡張工事や祝日の交通渋滞で7時間半におよんだ。アスファルトの舗装がない道路が続き、やっと海沿いにニコヤに到着すると、どんどん山の中に入っていった。
ニコヤ、サンタクルス、ホハンチャ、ナンダユレ、カリージョの5地区を対象とした2017年の調査では、43名の百寿者(100歳以上)が確認され、平均年齢は101.9歳。
内訳は、男性18名(42%)、女性25名(58%)です。一般的に女性が圧倒的に多い百寿者の中で、男性の割合が高いことがニコヤ半島の大きな特徴です。また、人口当たりの百寿者数はコスタリカ全体の約2~4倍に達すると報告されています。
なぜニコヤ半島では健康長寿が実現しているのか。
2024年に学術誌『Aging Clinical and Experimental Research』に発表された研究※2)では、ニコヤ半島の百寿者とその子ども・孫世代を対象に、身体計測、血液検査、食習慣を詳しく調査し、さらに都市部に住む一般成人とも比較した結果、百寿者は100歳を超えていても、子ども世代や孫世代より過体重や肥満、内臓脂肪の蓄積が少なく、血糖値や脂質などの代謝状態も良好に保たれていることが報告されています。また糖尿病や動脈硬化性疾患のリスクも低いことが示され、加齢に伴う代謝機能の低下が少ないことが明らかにされました。
※2)Dietary diversity, anthropometric status and biochemical profile of centenarians of the Nicoya Peninsula, Costa Rica, and their offspring
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38964265/
食生活にも大きな特徴があります。百寿者は子孫世代より乳製品や果物を多く摂取しており、特にさまざまな種類の果物を日常的に食べています。
さらに注目されたのが「食事の多様性です。」百寿者は多様な食品をバランスよく食べており、その指標である「食事多様性指数(Dietary Diversity Index:DDI)」は、子ども世代や孫世代だけでなく、コスタリカ都市部の一般成人よりも有意に高い値を示しました。研究者らは、良好な体重管理や代謝状態を維持できている背景には、特定の食品だけに偏らず、多種類の食品を日常的に摂取する食習慣が大きく関与している可能性が高いと結論づけている。つまり、健康長寿のためには「何を食べるか」だけでなく、「さまざまな食品をバランスよく食べること」が重要であることを示しています。

ニコヤ半島では、100歳を超えても自宅で家族とともに暮らし、地域とのつながりを大切にしながら生活する高齢者が少なくありません。今回、6名の百寿者を訪問し、生活や長寿の秘訣についてお話を伺いました。生年月日の正確性については、教会組織で出生証明が保管されており、正確なのだそうです。通訳を介してですが、ご本人に質問をし、直接お答えいただきました。

10人の子どもを育てたマリアさんは、現在も毎日のように自家製のトルティーヤを焼いています。
山間部で生まれ育ち、現在は市街地で家族と暮らしています。「長生きの秘訣は何ですか」と尋ねると、穏やかな笑顔で「すべて神様のおかげです」と。その信仰心の深さと温かな人柄が印象的でした。

昼食は息子さんの家のレストラン でいただきました
<ランチメニュー>
黒インゲン豆、白ご飯 、ゆで卵、鶏肉の煮込み、じゃがいもや根菜の
煮物 、キャベツとトマトのサラダ、トルティーヤ、ひよこ豆の煮ものとヤシの新芽、ココナッツジュース、カシのジュース、コーヒー

23人のお子さんをもうけ、大家族を築いてこられました。生活は非常に規則正しく、毎朝5時に起床し、午後6時には就寝する生活を続けています。コーヒーが大好きで、現在も1日3杯のブラックコーヒーを楽しんでいます。農業で生計を立て、99歳まで畑仕事を続けていたことにも驚かされました。長寿の秘訣については、「家族を守ること」と語ってくださいました。その言葉からは、家族への深い愛情と責任感が伝わってきました。

庭にある野生のマンゴーを取っておいしくいただきました

先住民のベネランドさんは、山上の自然豊かな場所で、娘さん一家の近くに奥様と暮らしています。電力は太陽光発電を利用しています。シャワーやトイレは教会の支援を受けて整備されたそうです。好きな食べ物は、お米、豆、コーヒー、豚肉。豚や鶏を放し飼いし素朴で伝統的な食生活を今も続けています。その暮らしぶりはNetflixのブルーゾーン・ドキュメンタリーにも登場されています。


海岸近くで暮らすマリアさんは、午後10時に就寝し、朝6時に起床する規則正しい生活を送っています。ただし、サッカーの試合がある日は、テレビ観戦のため少し夜更かしをすることもあるそうです。食事は、お米と豆が中心で、肉はほとんど食べません。サッカー観戦を楽しむという、自由で飾らない生活ぶりが印象的でした。半年前に足の手術を受けて入院したものの、「もう二度と病院には行きたくない」と笑いながら話してくださいました。将来の夢を尋ねると、「イタリアへ行き、教会を訪れたい」と目を輝かせながら語ってくださり、100歳を超えてなお楽しみを持ち続ける姿に心を打たれました。

ドラさんは、娘さん一家とともに山間部の町で暮らしています。
料理が大好きで、おしゃれを楽しみ、終始笑顔を絶やさない明るい方でした。訪問した私たちに、手作りのコーンスターチクッキーを用意してくださるなど、その温かいおもてなしの心に感動しました。ドラさんもNetflixのブルーゾーン・ドキュメンタリーに出演されており、その自然体で生き生きとした暮らしぶりは世界中で紹介されています。

ホセさんは、ギネス世界記録には登録されていませんが、記録が正しいと証明されれば世界最高齢の男性である可能性があります。山間部で家族と暮らし、16人のお孫さんに囲まれた生活を送っています。好きな食べ物は、お米とジャガイモ。この日のお昼ご飯は、マッシュポテトと牛乳でした。長寿の秘訣を尋ねると、「筋肉を維持すること」で、「昔は腕相撲では誰にも負けなかった」と誇らしげに話してくださいました。取材を終えて帰る際には、自ら立ち上がって家の外まで歩いて見送りに来てくださり、最後まで笑顔で大きく手を振ってくれました。その力強い足取りと温かな人柄は、今回の視察の中でも特に心に残る光景でした。
ニコヤ半島の百寿者を訪ねると、多くの人に共通して感じられるのが、「Plan de Vida(プラン・デ・ビーダ)」という考え方です。スペイン語で「人生の計画」「生きる目的」を意味し、日本の「生きがい」にも通じる概念ですが、より「自分が社会や家族の中で果たす役割」まで含んだ価値観として捉えられています。
ニコヤ半島の高齢者は、100歳を超えても「家族のために食事を作る」「畑を手入れする」「孫の世話をする」「近所の人と助け合う」といった日々の役割を持ち続けています。本人たちは特別なことをしているという意識はなく、「自分にはまだやるべきことがある」という思いが、ごく自然に生活の中に根付いています。
このように、年齢を重ねても「誰かの役に立つ」「家族や地域とつながり続ける」という役割意識が、生きる喜びや心の充実につながり、健康長寿を支える大きな要因になっていると考えられています。
超高齢社会を迎えた日本でも、「何歳まで生きるか」ではなく、「何のために生きるのか」「誰と、どのようにつながって生きるのか」という視点は、健康長寿を考える上で重要なヒントになるのではないでしょうか。
食生活は、「特別な健康食品」を取り入れているわけではありません。むしろ、昔から受け継がれてきた伝統的で、植物性食品を中心としたシンプルな食事を続けていることが大きな特徴です。食卓の基本となるのは、トウモロコシ、豆、米、カボチャなどの伝統的な農作物です。なかでも、コスタリカの国民食である「ガジョ・ピント」は、米と黒豆を炒め合わせた料理で、毎日のように食べられています。穀類と豆類を組み合わせることで、良質な植物性たんぱく質を効率よく摂取できるほか、食物繊維も豊富で、血糖値の急激な上昇を抑える効果が期待されています。
また、マンゴー、パパイヤ、スイカ、パイナップルなど、旬の果物を日常的に食べることも特徴です。これらの果物から、ビタミンやミネラル、抗酸化成分を自然な形で摂取しています。一方、日本では果物として食べることの多いバナナは、ニコヤ半島では熟したものを食べる習慣はなく、料理用のプランテン(調理用バナナ)を焼いたり煮たりして主食の一部として利用することが一般的です。
肉を食べないわけではありませんが、その量は少なく、毎日食べることはほとんどありません。肉は料理の主役ではなく、副菜や付け合わせとして少量を楽しむ程度であり、食事全体は植物性食品が中心となっています。
さらに、加工食品や超加工食品をほとんど口にしないことも、ニコヤ半島の食文化の特徴です。家庭で調理した新鮮な食材を中心とした食生活が受け継がれており、塩分や糖分、食品添加物の摂取も比較的少ないと考えられています。コンビニエンスストアーらしきお店はありませんでした。
このような伝統的な食生活は、豊富な食物繊維や植物性たんぱく質、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールなどをバランスよく摂取できるだけでなく、腸内環境の維持や代謝機能の改善にも寄与すると考えられています。

<ニコヤ半島の食材>
果物・植物:バナナ(房と単体のもの)、マンゴー(緑〜黄色)、カシュー
ナッツの実、ライム、青井マンゴー
穀物・野菜:トウモロコシ(紫トウモロコシ含む)、白瓜、タマリンド(茶色
いさや状のもの)、ウコン
スパイス・その他:八角、月桂樹の葉
<効果効能>
これらの食材は、ほとんどが野生で、食する直前に収穫されている。食物繊維源、ポリフェノール、発酵・腸内細菌に影響をあたえ、炎症を抑える食材食材といえる。
家族との強いつながりもあります。多くの百寿者は子どもや孫、ひ孫に囲まれて暮らし、家族が日常生活の中心となっています。今回訪問した百寿者も、10人、12人、23人という大家族を築き、現在も娘や息子、その家族とともに生活している方がほとんどでした。高齢になっても決して孤立することなく、自宅で家族の中で役割を持ちながら暮らしていることが印象的でした。例えば、102歳のマリアさんは毎日トルティーヤを焼き、107歳のドラさんは訪れた私たちのために手作りのクッキーを用意してくださいました。
これらは単なる家事ではなく、「家族や人のために何かをする」という役割そのものです。また、102歳のエウセビオさんは「長生きの秘訣は家族を守ること」と語り、その言葉からは家族への深い愛情と責任感が感じられました。
ニコヤ半島では、高齢者は「世話をされる存在」ではなく、「家族を支える存在」として尊重されています。料理をする、畑を手入れする、孫の成長を見守る、地域の人と語り合う――こうした日々の役割が、「自分はまだ必要とされている」という実感につながっています。
超高齢社会の日本では、施設や一人暮らしの高齢者が増加しています。家族と離れるということです。ニコヤ半島の百寿者たちが示す「家族や地域とのつながり」「誰かの役に立つ役割を持ち続けること」は、健康寿命を延ばすための大きなヒントになるのではないでしょうか。
ニコヤ半島の人々の暮らしは、決して物質的な豊かさを追い求めるものではありません。家族との時間を大切にし、地域の中で役割を持ち、自然の恵みに感謝しながら日々を丁寧に暮らしています。そこには、健康長寿を支える食生活や生活習慣だけでなく、人とのつながりや人生の目的や、いきがいを大切にする文化が根付いていました。 百寿者たちの明るい笑顔と温かな人柄は、豊かに生きることの本当の意味を私たちに教えてくれているようでした。
今回サンホセで宿泊したのは、コスタリカ大学北門のすぐのホテル「REGALO」。
標高約1,200mに位置するサンホセは一年を通して気候が穏やかで、エアコンがなくても快適に過ごせます。朝は窓から吹き込む心地よい風の音と鳥たちのさえずりで目が覚めるという、日本ではなかなか味わえない贅沢な時間。
そして、朝フロントへ向かうと、聞き覚えのあるメロディーが流れてきました。松原みきさんの「Stay With Me」です。世界的なシティポップブームで人気を集めていることは知っていましたが、フロントの青年に尋ねると、「コスタリカでもとても人気があるよ」と笑顔で教えてくれました。遠く離れた中米の地で日本の音楽を一緒に歌うという、思いがけない交流となりました。

シンポジウムと視察に 参加した先生方に、現地で最も印象に残ったことを伺いました。

6名の百寿者を訪問しましたが、長寿に共通する要因を一つに見いだすことは容易ではありませんでした。しかし、自宅で生活し、家族や地域社会の温かな支えを受けながら暮らしていることは、共通して印象に残りました。また、百寿者の男女比がほぼ1:1であったことも興味深い点です。これは昨年訪問したイタリア・サルディニア島でも同様であり、日本の約1:9という男女比とは対照的で、長寿研究において大変興味深い知見であると感じました。

百寿者の皆さんが家族との温かなつながりの中で暮らし、穏やかな笑顔を絶やさず過ごされていたことがとても印象的でした。また、日々の食卓には豆類が自然に取り入れられており、特別な健康法ではなく、長年積み重ねてきた日常の生活習慣そのものが健康長寿を支えているように感じました。長寿の秘訣は食事だけではなく、家族に支えられ、笑顔で毎日を過ごすことにもあるのではないかと実感しました。

健康長寿は誰もが願うものです。今回、ブルーゾーンの一つであるコスタリカ・ニコヤ半島を訪れ、118歳の最高齢男性が家族とともに穏やかに過ごし、笑顔で語ってくださった姿が深く心に残りました。また、人々が自然と共に暮らし、野生のマンゴーを拾って味わう姿や、牧草を食べる牛たちの穏やかな表情にも、この土地ならではの豊かな自然環境と人々の暮らしぶりを感じました。

皮膚科医の立場から特に印象的だったのは、コスタリカの百寿者には皮膚の加齢徴候が比較的少なく見受けられたことです。また、日本で診療する百寿者との単純な比較はできませんが、ニコヤ半島の百寿者は日常生活動作(ADL)が高く、服用している薬も少ない印象を受けました。この違いは、医療へのアクセスだけでは説明できない何かがあるように感じられ、健康長寿の背景について改めて考えさせられました。

今回のコスタリカ・ニコヤ半島での百寿者訪問は、私にとって驚きの連続でした。最も印象的だったのは、百寿者の皆さんが家族との温かなつながりの中で、家庭でごく自然な日常生活を送っておられたことです。日本では、私たちが出会う百寿者の多くは、何らかの疾患を抱え、医療機関や高齢者施設で長寿を迎えています。一方、コスタリカで出会った百寿者は、家族と共に家庭で暮らし、医療や介護に大きく依存することなく、自然と共に日々を生き抜いてこられた方々でした。さらに脈拍や浮腫などの身体所見を確認させていただいたところ、118歳の最高齢の男性を除き、脈拍に明らかな不整はなく、病的な下腿浮腫も認めませんでした。年齢を感じさせない良好な全身状態にも、大きな驚きを覚えました。今回の訪問を通じて、寿命を延ばすだけでなく、人や自然とのつながりの中で、最後まで自分らしく暮らせる健康長寿社会の実現こそ、これからの日本が目指すべき姿ではないかと強く感じました。
今回のコスタリカ視察に際し、多くの皆様より温かいご支援とご協力を賜りました。特に、在コスタリカ日本国大使館の石橋洋信特命全権大使、伊藤栄子二等書記官には、大使公邸での夕食会にご招待いただき、コスタリカの研究者との貴重な交流の場にご同席を賜りましたことを、心より御礼申し上げます。大学訪問や百寿者へのインタビュー、研究者との意見交換など、すべての日程を大変有意義に終えることができました。ここに深く感謝申し上げます。さらに、コスタリカ大学医学部・老年学分野・微生物学分野の先生方をはじめ、本視察にご協力いただいたすべての皆様、快くご自宅を訪問させてくださったニコヤ半島の百寿者とそのご家族の皆様に、心より感謝申し上げます。そして、今回のシンポジウム・視察のすべてをコーディネイトしてくださったローラさん通訳の西川さん本当にありがとうございました。今回の視察で得られた多くの学びと出会いを、健康長寿研究や抗加齢医学の発展に生かしていきたいと考えております。