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人生100年時代の活力をつくる医学マガジン

武庫川女子大学国際健康開発研究所所長 家森幸男 先生

家森幸男 先生

2019年抗加齢医学功労賞受賞

 このたびは抗加齢医学功労賞を頂きまして、大変な光栄でございます。

 私が医者になりました1960年代は、日本で脳卒中が歴史上一番多かった時期です。そして、この脳卒中をなくす研究では、どうしてもヒトと同じような症状をもつモデルが必要でした。そこで、100%脳卒中を起こすラットを、10年ほどかけて作りました。そして、そのラットを使った研究の結果、遺伝子を調べれば脳卒中の発症が予知でき、降圧治療によって予防でき、さらに、栄養によっても予防できるということもわかりました。当時
の日本人は、全体的にたんぱく質の摂取が少し足りませんでしたが、日本の伝統食の魚や大豆のたんぱく質を摂ることで、脳卒中は予防できるということもわかりました。

 脳卒中の遺伝子があってもそのゲノムをも超える力が栄養にあることが実証されたので、これを人の健康のために生かしたいと、1982年にWHOの循環器疾患専門委員会に「栄養による脳卒中の予防」の成果を報告致しました。世界中で24時間尿を集めて正確に栄養摂取の状態を調べて、脳卒中はじめ、循環器疾患が予防できるかどうかということを調べたいと申し出て、1985年からWHOの協力を得て30年かけてWHO国際共同研究をさせて頂きました。その成果がようやく出てきまして、24時間尿で、ナトリウムやカリウム、マグネシウムを分析し、大豆と魚の摂取状況がわかるバイオマーカーも使って、マサイ族からチベット族の方まで世界中25カ国61地域で1万4千人の方々を調べました。

 そして、大豆摂取の少ない方から多い方まで5分割し、魚の摂取の少ない方から多い方まで5分割して、5×5の25枠に分割して日本人の割合を調べました。その結果、魚と大豆を最もよく摂っているトップ1/25の分類の中では日本人は90%を占めていた一方で、大豆も魚も一番摂っていないグループには日本人はいませんでした。

 そこで、和食の特色は、実は魚と大豆を共通に摂ることだということが分かり、魚や大豆の尿中のバイオマーカーと心筋梗塞が逆相関することから、心筋梗塞も予防できることや、日本人の世界最高レベルの平均寿命が大豆や魚の摂取により心筋梗塞の死亡率が先進国中最低であることもわかりました。 そして、魚や大豆を食べれば善玉コレステロール値は上がりますし、葉酸値が上昇しますので、認知症の予防も期待できます。

 ただし、問題もありました。魚や大豆を摂る日本人は食塩の摂取量が多く、脳卒中になりやすいということです。従いまして、日本では世界一長い平均寿命よりも健康寿命が10年も短いという問題を抱えているわけです。

 20年近く前になりますが、今回抗加齢医学功労賞をともに頂きました折茂先生と一緒にブラジルのリオグランデカトリック大学に南米初の老人医学研究所を創設されました      森口幸雄先生(現在95歳)にお招き頂きまして、南米各地で老人医学の研究される先生方の教育に協力させて頂いたことがあります。その森口先生のご協力を頂きまして沖縄からブラジルに移住された日系の方々の健診をしたところ、彼らは大豆も魚も食べなくなって肉中心の食生活で心臓病が多くなり寿命が17年も短くなっていることがわかりました。

 一方で、沖縄からハワイに移住された方々は、魚も大豆も食べる上に、ポリネシア風の料理方法が加わって1日6gの減塩を達成したこともわかりました。魚や大豆を食べられる日本食は減塩で食べれば健康長寿食になることや、塩分を減らせるポリネシア風の蒸し料理や塩分の害を抑える野菜や乳製品などを加えてバランスよく食べれば健康長寿につながるということもわかりました。

 日本は、世界でも少子・超高齢化のトップをいく社会です。抗加齢医学功労賞を頂きましたことを機に、我々が伝統的に持っていました和食のメリットを適塩でバランスよく食べることで健康長寿に役に立つという研究をさらに続けさせて頂きたいということを、抗加齢医学功労賞受賞のお礼の言葉とさせて頂ければと思います。

 本当に立派な賞を頂きありがとうございました。これを励みに、命のある限り人々の健康のために尽くしたいと思います。

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