「小太りは長生きできる?」
- 学会誌ダイジェスト
- 2022年1月14日
「小太りは長生きできる?できない?」は人気のテーマだ。カロリーリストリクションと有名な NEJM 誌の大規模疫学研究から,体重には最適値があり,BMI で22程度(小太りではない)が最も健康だといわれる。
このロジックについて,大阪大学の長尾博文先生,下村伊一郎先生がしっかりと論評してくださった。
逆に,東北大学の辻 一郎先生らが長年にわたって“小太りが長生きできる”という疫学データを出しており,また脂肪細胞から eNAMPT(NAD を作る酵素の一つ)が放出されることから,健康,長生きには脂肪細胞が必要なことが知られている。これらについて,慶應義塾大学の新井康通先生が膨大な疫学データとともに論評してくださった。
肥満は糖尿病や高血圧とともに最も重要な心血管病危険因子の一つであり、健康長寿の阻害要因であることは疑いがありません。一方で、小太り(BMIが25.0〜29.9)については古くから長生きというイメージがあります。
しかし、心血管危険因子の薬物管理は目覚ましい進歩を遂げており、ここ30年間で最も死亡率が低いBMI は3.3増加して小太りのほうが正常体重よりも死亡率が低い結果となっています。
また、統計学的に有意ではありませんが、小太り百寿者の生命予後が最もよい傾向がみられ、85歳以上の高齢者においても小太りの超高齢者の生存率が最も高い傾向がみられています。
特に後期高齢期以降に増えてくる認知症,サルコペニア,フレイル,誤嚥性肺炎などの老年病/老年症候群では,痩せや低栄養が死亡リスクとして重要となり,体重を落とさないことが長寿につながります。後期高齢期以降にいかに体重を維持して老年病を予防するかの食事摂取基準や運動推進プログラムの策定が望まれます。
肥満は体脂肪量の増加だけでなく、体内脂肪分布の違いによって種々の生活習慣病の罹患率に差があることがわかっています。近年はBMI が普通体重を大きく上回っていなくても,内臓脂肪が溜まりポッコリとお腹の出たメタボリックシンドロームに相当する中年男性はいわゆる「小太り」に当てはまると考えられ、内臓脂肪蓄積状態では種々の疾患を呈することが明らかになっています。
国内の研究では「小太り」や「隠れ肥満」に相当するBMI 25未満の内臓脂肪蓄積例の心血管疾患危険因子数は,BMI 25以上内臓脂肪蓄積のない例の危険因子数より有意に高く,内臓脂肪型肥満例に匹敵するリスク保有数でした。また、日系アメリカ人の前向き調査でも,内臓脂肪量が冠動脈疾患や2型糖尿病,インスリン抵抗性の増悪に関与していることが報告されています。
さらに、海外の疫学研究でも、いわゆる小太り群において、標準体重群と比べて心血管イベント発症率および総死亡率が高くなることが明らかとなっています。
※この内容は、「アンチエイジング医学 2017年10月号(Vol.13 No.5)」に掲載された「小太りは長生きできる!?」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください。
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