Action!

人生100年時代の活力をつくる医学マガジン

緊急特別企画 COVID-19

COVID-19 対策、治療で医療は大変なことになっています。
このようなときにでも、学会として情報を発信することは必要と考え、 学会誌2020年6月号学会誌で 緊急企画 COVID-19 を企画します。
WEBマガジンでは、一部の情報をリリースします。ぜひ一読ください。

Significant Scientific Evidences about COVID-19
by Toshiharu Furukawa

参議院議員、慶應義塾大学大学院法法務研究科教授、慶應義塾大学医学部外科学教授、日本抗加齢医学会所属の古川俊治先生よりご提供を頂いたものとなります。

はじめに

現在、新型コロナウイルス (COVID-19) パンデミックは、中国、韓国はすでに消退し、欧米ではロックダウンの中、新規感染者数のピークは過ぎてきているものの、日本では今後の感染状況はまだ予断を許さない状態と言える。

日々このCOVID-19 パンデミックに対する情報発信がなされていく中において、抗加齢医学の立場から発信していくべきことは何かを考え、この緊急特集を、内藤裕二編集長に企画いただいた。短い時間の間にインパクトのある原稿を執筆いただいた先生方に厚く御礼申し上げるとともに、是非多くの方に読んでいただけることを願っている。             

堀江 重郎(日本抗加齢医学会理事長)


学会誌 2020年6月号 緊急企画 COVID-19 対策

※5月18日時点 変更になる場合があります。 

1.COVID-19対策総論 
 堀江 重郎
 日本抗加齢医学会理事長/順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学
2.SARS-CoV-2ウイルスとは その特徴と感染・増殖メカニズム
 北村 義浩
 長野保険医療大学
3.基礎を学ぶ〜ウイルスに対する免疫機構
 濵﨑 洋子
 京都大学大学院医学研究科免疫生物学
4.栄養不足と免疫低下
 東口 髙志
 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会理事長/ 藤田医科大学医学部外科・緩和医療学講座
5.機能性食品因子と免疫力アップ
 市川 寛
 同志社大学生命科学部
6.運動と免疫力アップ
 矢野 博己
 日本運動免疫学研究会理事長/川崎医療福祉大学
7.睡眠・ストレスと免疫力アップ
 西野 精治
 スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所
 長田 康孝
 株式会社ブレインスリープ
8.ビタミンと免疫〜ビタミンDを中心に〜
 満尾 正
 満尾クリニック
9.腸管粘膜免疫と全身免疫
 内藤 裕二
 京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学
10.漢方薬とウイルス感染症
 渡辺 賢治 横浜薬科大学特別招聘教授/慶應義塾大学医学部漢方医学センター
11.高血圧とCOVID-19~ACE2,レニン・アンジオテンシン系をめぐって 
 田中 正巳
 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科
 伊藤 裕
 日本高血圧学会理事長/慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科
12.COVID-19と唾液腺 ~重症化予防のための新たな口腔ケア~
 阪井 丘芳
 大阪大学歯学部
13.新型コロナ治療薬、開発急ピッチ 世界で治験!
 小崎 丈太郎
 日経バイオビジネス元編集長
14.COVID-19ワクチン開発
 中神 啓徳
 大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座
 森下 竜一
 大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学
15.新型コロナウイルスの環境における安定性と今、可能な対策
 廣瀬 亮平
 京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学
16.ゲノム、PCR、抗体? 我が国の今
 中神 啓徳
 大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座
17.COVID-19と心血管疾患
 藤木 伸也
 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学
 南野 徹
 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学

その他 


1. COVID-19 対策総論

堀江 重郎(ほりえ しげお)
順天堂大学大学院医学研究科・泌尿器科外科学主任教授
社団法人日本抗加齢医学会理事長
1960年生まれ。日米の医師免許を持ち、泌尿器科学、腎臓学、分子生物学、微生物学、臨床腫瘍学の研鑽を積む。1997-1998年東京大学医学部微生物学文部教官、国立感染症研究所主任研究員、2003年より帝京大学医学部主任教授、2012年より現職。


1.ウイルス感染は繰り返す そして健康弱者に被害が大きい。

言うまでもなく感染症は、ヒトの移動で伝搬する。14世紀、モンゴルの軍事的伸長でできた、ユーラシア大陸を包括する「世界システム」でモノ・ヒトの移動の自由が大きく拡大した中で、ペストが全世界に広がり、人口の1/3が失われたと想定されている。逆に2/3のヒトは、抗生物質がなくとも、死亡を免れている。この中には体内に鉄を余分に溜め込みやすい体質の人は、ペストに感染しにくいという利点があった。ペストに抵抗性を持った遺伝子多型は、その後も伝わりヘモクロマトーシスのリスクとなっている。(S.モアレム+J.プリンス『迷惑な進化』NHK出版)COVID-19に対しても宿主の遺伝子変異が感染しやすさ、重症化のリスクに関係しているであろう。

さらにわれわれが忘れている黄熱病を取り上げてみよう

黄熱病はもともとはアフリカの風土病であったが、奴隷貿易などによりアフリカから、アメリカ大陸へヒトの移動が生じ、17世紀-20世紀にアメリカ、スペイン、中南米などで流行するようになった。特にアメリカでは1668年に人口が稠密であったニューヨークでアウトブレイクが起こり、その後3世紀にわたって、フィラデルフィアやルイジアナなど各地でたびたびアウトブレイクが起こっている。1900年に蚊が媒介することが公衆衛生学的に確認されたが、野口英世はこのアメリカの感染症アウトブレイクの治療開発のために、ロックフェラー研究所からガーナへ派遣されている。ちなみにこのロックフェラー研究所の国際感染部が現在のWHOの前身となっている。黄熱病のウイルスは1920年に分離され、1930年代にワクチンが開発されるようになり、ようやく感染はコントロールされるようになった。

ウイルス感染はヒト・ヒト接触によるものであれば、まず公衆衛生対策は、ヒトが集まらないようにすることが第一歩となる。

図1 スペイン風邪での公衆衛生対策 (文献1)

(図1)は1918年のいわゆるスペイン風邪と言われた新型インフルエンザの死亡者数の推移を米国のセントポールとピッツバーグの2つの市でプロットしたものである。[1] 興味深いことに当時の公衆衛生的方策、すなわち集会の禁止と学校の停止を早期から開始したセントルイスと、患者発生から遅れて、しかも不完全な形で対応したピッツバーグでは死亡者数の増加のパターンが全く異なっていることである。ピッツバーグの形は古典的なオーバーシュートであり、しかも感染のロングテールが小規模ながら継続している。一方セントルイスでは感染の消退により、方策を解除したところ死亡者が増加したために再度ロックダウンを再開しており、その後再度解除した後は大規模な感染は起きていない。ピッツバーグではなぜ、オーバーシュートの後にも感染が小規模ながら持続したのか、セントルイスでは規制解除後にオーバーシュートしなかったのはなぜかが興味深い。いうまでもなく欧米がピッツバーグ型であり、日本はセントルイス型になっているが、今後の展開を考える上で過去のデーターは参考になる。このスペイン風邪は日本においても1918-1919年、1919-1920年の2シーズンにかけて猖獗を極めたが、2シーズン目では感染者数、死亡者数は減少したものの、死亡率は2シーズン目の1919-1920 年のほうが高い傾向があった。(図2)

図2 日本のスペイン風邪死亡者数 (文献2)

[2] この時の新型インフルエンザ禍ではむしろ若年者、妊婦の死亡率が高いことが特徴的であった。従って現在のCOVID-19禍の死亡者が基礎疾患のある高齢者に多いこととは大きく異なる。これはコロナウイルスとインフルエンザウイルスの違いに加えて、都市労働者には若年者が多く、劣悪な労働環境・栄養状態や、人口稠密、人口構成などが現在とは大きく異なっていた可能性が示唆される

2.ウイルス感染における免疫力をどうアップする

このCOVID-19パンデミックも有効なワクチンの開発が感染コントロールの鍵を握ることは間違いないものの、有効なワクチンの選別や副作用のモニター、さらに大量生産の体制には時間がかかる可能性がある。

これまでのCOVID-19の死亡者数を見てみると結核に対するBCGワクチン接種を法制化されている国(日本、中国、ロシア、アジア諸国)、以前行われていたが現在は行われていない国(多くのヨーロッパ諸国)、全く行われていない国(イタリア、米国)で異なっているという指摘がされた。(図3)


免疫応答には、異物の蛋白を認識する獲得免疫と、異物の存在に応答する自然免疫が存在する。(図4)

図4 自然免疫と獲得免疫

BCG接種は、結核菌に限らず、非特異的に感染に対して自然免疫を高めるという研究が最近報告されている [3] ことから、BCG接種をされていない国ではコロナウイルス感染予防として、BCG接種の臨床試験が始まっている。

抗加齢医学では免疫老化に注目をしている。酸化ストレスが更新している状態が免疫老化をもたらすことは学会員のみなさまには周知となっている。[4] メディアで報道される「基礎疾患」とは、まさに酸化ストレスが亢進した状態と呼んで差し支えないと思われる。いまこそ免疫のアンチエイジング、すなわち酸化ストレスを減らす、食品、運動、生活習慣をぜひ発信していただきたい。

ところで免疫老化には臓器特異性があることに注意したい。肺においてはNK細胞の機能低下、プロスタグランジンD2増加による樹状細胞の機能低下 [5]、さらに樹状細胞(DC)、単球、マクロファージ等の抗原提示細胞(APC)に発現し、自然免疫とT細胞のプライミングに重要なメディエーターであるNLRP3の発現低下 [6] が、加齢によって生じ、 肺炎が起こりやすくなる。また加齢、喫煙、さらに慢性肺疾患がある患者ではMDSC (myeloid-derived suppressor cells)と呼ばれる免疫応答を阻害する細胞も増える。(図5)

図5 悪玉免疫細胞 MDSC

このMDSCはNOを産生して、われわれになじみのある酸化ストレスをB cellに与えて抗体形成を阻害する。(図6)[7]

図6 MDSC細胞が免疫細胞の働きを抑える (文献7)

このMDSCの作用を抑える薬物にはATRA(白血病治療に用いるビタミンA誘導体)、ビタミンD、PDE5阻害薬、抗がん剤である5-FUがあげられる. [8] 活性型ビタミンD3はウイルス肺炎に有効だというデーターもあります。またPDE5阻害薬は意外に思われるかもしれませんが、がん患者を対象とした臨床試験において、PDE5阻害薬がMDSC細胞数を減らすことが報告されている。[9] (図7)

図7 タダラフィルはMDSCの数を抑える (文献9)

自然免疫系は、生体がウイルスや細菌といった病原体の侵入を感知し排除するシステムである。自然免疫系においては、インターフェロンはウイルス感染に対する初期防御反応において重要な役割を果たす生理活性物質であり、ウイルス感染を受けた細胞から産生され、細胞死を生じる。朝鮮人参はインターフェロン応答を増加することが知られている(図8)[10]

図8 朝鮮人参はインターフェロンを増やす (文献10)

生薬として、あるいは十全大補湯などの漢方製剤から朝鮮人参の摂取は可能である ビタミンD3、PDE5阻害薬、朝鮮人参は適量であれば副作用なく長期間服用可能であることから酸化ストレスを少なくする生活習慣とともに併用を勧めたい。

まとめ

有効なワクチンや治療薬のない現在、ウイルス感染症パンデミックは大きな社会不安、雇用不安を生じている。しかもそのコントロールには長期間かかることが懸念される アンチエイジング医学は、すなわちウイルス感染をものともしないからだつくりに直結する医学でもある。学会会員のみなさまがこの特集の記事をご覧いただき、積極的に情報を発信されることを願っている。

文献

1.Markel H, Lipman HB, Navarro JA, et al. Nonpharmaceutical Interventions Implemented by US Cities During the 1918-1919 Influenza Pandemic. JAMA. 2007;298(6):644–654.

2.日本におけるスペインかぜの精密分析(インフルエンザ スペイン風邪 スパニッシュ・インフルエンザ 流行性感冒 分析 日本):(東京都健康安全研究センター)東京都健康安全研究センター年報,56巻,369-374 (2005)

3.Moorlag SJCFM, Arts RJW, van Crevel R, Netea MG. Non-specific effects of BCG vaccine on viral infections. Clin Microbiol Infect. 2019;25(12):1473–1478.

4.Colitti, Monica et al. Oxidative Stress and Nutraceuticals in the Modulation of the Immune Function: Current Knowledge in Animals of Veterinary Interest. Antioxidants (Basel, Switzerland) 8, 28, 2019.

5.Zhao J, Zhao J, Legge K, Perlman S. Age-related increases in PGD(2) expression impair respiratory DC migration, resulting in diminished T cell responses upon respiratory virus infection in mice. J Clin Invest. 2011;121(12):4921–4930.

6.Impaired NLRP3 Inflammasome Function in Elderly Mice during Influenza Infection Is Rescued by Treatment with Nigericin. Heather W. Stout-Delgado, Sarah E. Vaughan, et al. The Journal of Immunology March 15, 2012, 188 (6) 2815-2824.

7.Jaufmann J, Lelis FJN, Teschner AC, et al. Human monocytic myeloid-derived suppressor cells impair B-cell phenotype and function in vitro. Eur J Immunol. 2020;50(1):33–47.

8.Najjar YG, Finke JH. Clinical perspectives on targeting of myeloid derived suppressor cells in the treatment of cancer. Front Oncol. 2013;3:49.

9. Tadalafil Augments Tumor Specific Immunity in Patients with Head and Neck Squamous Cell Carcinoma. Joseph A. Califano, Zubair Khan, Kimberly A. Noonan, et al. Clin Cancer Res 21: 30-38, 2015.

10.Lee JS, Hwang HS, Ko EJ, et al. Immunomodulatory Activity of Red Ginseng against Influenza A Virus Infection. Nutrients 2014, 6, 517-529.

※この内容は、日本抗加齢医学会学会誌2020年6月号の「アンチエイジング医学 (Vol.16 No. 3)」に掲載の内容の一部です。
本誌をぜひお読みください。

http://www.m-review.co.jp/magazine/detail/J0038_1603

なお、日本抗加齢医学会会員の方には、学会誌(年6回発行)を全てお届けしております。

POPULAR TAG

タグ

TOP