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「乳酸菌は死菌? 生菌?」

 乳酸菌は古くから種々の発酵食品に利用されており、食品の加工、調味、貯蔵に重要な役割を果たしてきました。ロシアのノーベル生理学・医学賞受賞者Mechnikov は、ブルガリア旅行中に、ヨーグルトを常食するブルガリア人に100歳以上の長寿者が多いことを発見、また砂漠に居住するアラビア人がラクダの乳・酸乳だけで長寿を得ていること等に着目した。乳酸菌を含んだヨーグルトを摂取することで腸内環境が改善される」という彼独自の説を唱えていた。これが世に言う「ヨーグルト不老長寿説」ですが、ヨーグルト中の乳酸菌が生きて腸に届かないことが分かり、下火になったとされていましたが、近年の研究により、生菌のみならず死菌や代謝産物も含めた乳酸菌による生体調整機能が明らかになりつつあります。一方で消化液耐性のある乳酸菌種が「宿主に有益な影響を与える生きた微生物 プロバイオティクス」として、生きて腸に届く生菌にこだわった開発・応用もなされています。

 今回は、乳酸菌摂取には生菌がいいのか?それとも死菌がいいのか?という興味深い議論です。

「死菌」の立場から

嶋田 貴志 ニチニチ製薬株式会社中央研究所取締役部長

 乳酸菌や発酵食品が健康に良いことは多くの人が感じていると思われ、乳酸菌を利用した発酵食品は伝統的に食されています。近年は乳酸菌を殺菌することで,冷蔵が不要となる上に胃酸耐性に捉われずに加工が容易になること、食品の味や品質に影響しないことなどの工業的メリットによって菌体成分を簡単に大量摂取することが可能になり、加工食品や清涼飲料水など幅広い食品類にも乳酸菌が添加されるようになりました。また、死菌の機能性に関する研究も急速に進められており,生菌で認められた機能性については乳酸菌の生死には関係ないという報告が数多く出てきています。

 特に、整腸作用に関しては外部から生きた乳酸菌を摂取しても数日以内にすべて排泄されることを考えると、死菌によって腸内にいる乳酸菌やビフィズス菌を増加させ、常在性腸内細菌叢のバランスを調整させたほうが効率的であるともいえます。特に、免疫賦活作用に関しては数々の研究により死菌のほうが効率的であると考えられます。

「生菌」の立場から

鈴木 重德  カゴメ株式会社イノベーション本部

 乳酸菌という名称は「乳酸を多量に作る細菌」の総称であり、生きた乳酸菌というものはヒトを取り巻くさまざまな環境に生育していることが知られています。「生きた乳酸菌がヒトの健康に何かしら貢献しているのでは」というノーベル賞を受賞したメチニコフの仮説は世界中に広まり,科学技術の進歩に伴う腸内菌叢の研究深耕も相まって乳酸菌によるさまざまな保健効果が科学的に実証・報告されるようになりました。

 生きた乳酸菌は胃液や腸液といった消化液に耐えながら大腸に到達し、乳酸などの有機酸を産生します。この有機酸は大腸内のpHを調整してビフィズス菌が生育しやすい環境を作る一方で、サルモネラ菌や病原性大腸菌などの病原菌の増殖を抑制して腸内菌叢全体のバランスを改善し、宿主であるヒトに好影響をもたらします。これには腸内菌叢が存在する腸まで乳酸菌が「生きた」状態でたどり着いてこそ,有機酸が産生されて腸内菌叢に影響を与えることができると考えられます。

※この内容は、「アンチエイジング医学 2020年6月号(Vol.16 No.3)」に掲載された「乳酸菌は死菌? 生菌?」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください

なお、日本抗加齢医学会会員の方には、学会誌(年6回発行)を全てお届けしております。

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