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「耳を鍛える?鍛えない?」

「耳を鍛える」とはどういうことか? 加齢によって難聴が増えていくことを考えると、興味深い。耳を鍛えるとの立場で、耳を通して脳を鍛えるという概念。ノイズから守っていくべきで、耳はむしろ大切にしていくものだ。という立場で解説をいただいた。

「耳を鍛える」の立場から

神崎晶 慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科専任講師

 難聴者は音が耳から脳に入力されないため、コミュニケーションがとれず社会生活に支障が生じて認知機能の低下につながります。アルツハイマー症例群100人と高齢者群100人を比較したところ、聴力低下と認知機能低下に関連が認められ、認知症の発症を遅らせる試みや予防法の発見が期待されています。

 加齢に伴う老人性難聴では,感音難聴は聴こえのセンサーである内耳や聴神経の機能が徐々に低下してしまいます。このセンサーにある感覚細胞や神経は再生しないため,難聴を回復させることは難しく「補聴」による聴覚の獲得が必要です。

 老人性難聴をはじめ,難聴者に対して補聴器を使用したトレーニングによって認知機能を向上させることが期待されており、194人を補聴器装用群と非装用群に分けて行った試験では、8時間/ 日、4ヵ月間の補聴器装用によって,社会性,コミュニケーション機能,認知機能,うつ傾向が改善しました。補聴器装用の継続で耳を鍛えることによって認知機能を改善させる可能性を示しています。

「耳を鍛えない」の立場から

内田育恵 愛知医科大学耳鼻咽喉科学講座講師

 両耳に軽度以上の難聴を有する人は65歳以上の3人に1人といわれています。一方で、低い音域から高い音域の5周波数すべてにおいて,聴力レベルが正常範囲に保たれている人が70歳以上でも4%程度存在することがわかっており、そこに加齢性難聴予防のヒントがあると推察できます。

 音楽的トレーニングや経験が脳の構造や働きを変化させ、音声言語処理機能によい影響をもたらすことが知られています。高齢になると一般に言語理解能力が落ちてきますが、若い頃に音楽トレーニングを受けている人は,高齢期の言語理解能力低下が軽いということが報告されています。また、このようなトレーニングによる神経機能の可塑性が高齢期においても維持されていたことも証明されています。

 耳は鍛えて頑強にすることはできません。しかし、大きすぎるレベルの音を聴いたり,長時間聴きすぎると疲労現象を起こし回復不能に陥るという繊細な構造をもつデリケートな耳の健康を長く維持するためには、日頃から耳を大切に守る努力が必要だと考えられます。

※この内容は、「 アンチエイジング医学 2015年4月号(Vol.11 No.2) 」 に掲載された「耳を鍛える?鍛えない?」を要約したものです。
詳しくは、学会誌をぜひお読みください

なお、日本抗加齢医学会会員の方には、学会誌(年6回発行)を全てお届けしております。

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