ブルーゾーン 「沖縄大宜味村」に学ぶアンチエイジング
- 学会誌ダイジェスト
- 2022年4月11日
世界には、90歳はもちろん100歳を超える沢山の人々が健やかに生きる、健康長寿の地域があります。 「ブルーゾーン」と呼ばれるそうした地域はイタリアのサルディーニャ島を筆頭に、米国『ナショナル・ジオグラフィック』によって世界5カ所が認定されており、日本の沖縄県・大宜味村(おおぎみそん)もその一つです。
沖縄本島の北部、「やんばる」地域にある大宜味村は、村域のほとんどが森林に覆われた山地で、住民
は自然とともに暮らす健康的な生活を昔から続けてきました。この度「大宜味村の人々はなぜ長寿なのか」本格的な調査に先出ち、現地を訪れ「ブルーゾーン研究会」を実施しました。
大宜味村の長寿の秘密に迫った視察の模様について、レポートいたします。
沖縄に集合した一行は、大宜味村の食堂「笑味の店」へと向かい、ランチをとりました。店主で管理栄養士でもある金城笑子さんが調理する、地元で採れた野菜が中心のメニューは、多くの観光客にも人気を集めています。沖縄弁で「お任せください」を意味する「まかちくみそーれ」と名付けられた長寿 膳は、体にやさしく繊細な美味しさに満ち、まさに「医食同源」を実感する料理。金城さんのお店の前にも、自家農園があり、食材の一部はここから採ったもの。沖縄の健康と長寿の秘密を探るには「食事」は最重要のテーマです。
「この食事ならば、どれだけ食べても胃にもたれませんね」といった感想が聞かれました。
食事を終え、次に向かったのは、大宜味村の山間にあるカフェ「がじまんろー」。オーナー、真謝江美子さんが丹精込めて、無農薬畑で育てたシークワーサーを絞ったジュースと、店の庭で採れたフーチバー(よもぎ)ケーキ。目の前には緑深い森の木々と、庭の花々が風に揺れる。なんとも心地よい空気感。真謝さんから大宜味村の生活について話していただきました。山の上にある大宜味村の住人は、学校への行き帰りや買い物のために、常日頃から坂の登り下りをするのが日常だそうです。また基本的に野菜を店で買うことはなく、自分の家で育てた野菜を食べ、畑仕事の行き帰りに隣近所の人と話すのが日常で、「お店も毎日開けばもっと儲かるのに、と言われるんですが、楽しく働きたいから店は週3日だけ、週末は休むんです。ストレスがない生活を送っています」と語ります。
大宜味村村長の宮城功光さん。長寿の村で全国的に知られる大宜味村には、90歳以上の元気なお年寄りが約200人、100歳以上の方も20人程おり、高齢者が元気に健康に暮らしています。この村の特産であるシークワーサーの良さを日本全国に広めるとともに、今後は、研究者と大宜味村がなぜ長寿なのかという科学的な根拠を示して、ブルーゾーンとしての大宜味村の存在を多くの人に知ってほしいと願っています。
中部大学の禹済泰先生は、沖縄産の植物、ハッカリス、黒ウコン、月桃、シークワーサーの多様な生理機能と、薬草の効能を発表されました。沖縄に移住をし社会への応用を意識して、研究を続けられるそうです。静岡県立大学の山田静雄先生は、「シークワーサーに含まれるノビレチンの排尿障害と認知機能の改善効果」について、臨床研究での有意な結果を解説。京都府立医科大学の内藤裕二先生は、京都・京丹後市の高齢者のコホート研究の紹介に始まり、沖縄の高齢女性が持っている腸内細菌、アッカーマンシア菌があると述べられました。順天堂大学の堀江重郎先生は、「遺伝子に見る長寿の研究」の中で「ストレスマネジメントと生活習慣の改善が、細胞の老化の指標であるテロメアに良い影響を与えること」を解説されました。
大宜味村には16の集落があります。山間だったり、海辺だったりしますが、大宜味村の中でも特に高齢化が進んでいる、40戸ほどの家々がある上原集落にむかいました。案内してくれたのは集落の区長を務める松川隆行さん。松川さんは目に入る、風景や自然の観葉植物園とも思える山の植物について解説しながら案内してくれました。
「大宜味村の家庭のほとんどは、家の前の『あったいぐぁー』と沖縄弁で呼ぶ自家菜園で、自分たちが食べる用の野菜を作っています。無農薬で化学肥料もほとんど使わず、自然のなかで育った地元の野菜をずっと食べていることが、健康の秘訣の一つです」
「沖縄のハーブの一つとして有名な『月桃』はしょうがに似た香りを持つ薬草として親しまれ、昔から餅やご飯(ジューシー)を包むのによく使われてきました」
30分ほどかけて村落の坂道を登っていきます。山道の脇には住民の人々が手入れをするシークワーサーの果樹があります。斜面一面に植えられたシークワーサーの木の枝の間からは、遠くに沖縄の美ら海の輝きが見えました。
「90歳を超えたお婆ちゃんが、毎日この坂道を登り下りして、無農薬でシークワーサーの手入れをしています。ここで海を眺めながら食べるお弁当は、格別です。まさに桃源郷と言ってもいいでしょう」と松川さん。
イタリアのサルディーニャ地域も同じく、長寿地域のブルーゾーンはすべて急な坂道のある傾斜地にあります。そこで暮らす人々は日常的に坂を登り下りする必要がありますが、それが結果的に足腰を鍛え、寝たきりを防いでいることが、大宜味村を歩くことで実感されました。
研究者が着目するシークワーサーの有効成分「ノビレチン」は、皮に含まれることが成分分析でわかっていますが、大宜味村の人々も昔からシークワーサーは皮ごと絞り、残った皮は煮詰めてジャム状にして、さまざまな料理に使っているそうです。またシークワーサーは、緑の皮に黄色の実というイメージが強いですが、後にはみかんようなオレンジ色になり甘くなります。
それを搾って、ジュースにしたりゼリーで食することもできます。自然の甘さと酸っぱさが絶妙です。
大宜味村は、街灯など少ないため、夜は真っ暗になり、星空を楽しむことができます。星座や天の川が癒やしになります。冬の星座といえば、「シリウス」。そしてシリウスに次いで明るい星が「カノープス」になります。「カノープス」は空に輝く全ての星の中で、なんと2番目の明るさを誇ります。この「カノープス」は、中国では、南の地平線ぎりぎりに現れる奇妙な赤い星として知られていました。
なかなか見ることができないことや、縁起の良い赤い色であることなどから、中国では「カノープス」を「南極老人星」や「寿星」と呼んでいます。この星を見ることは縁起が良いとされ、一目見ると寿命がのびるという言い伝えがあるそうです。
沖縄北部にあるサンゴ礁でできた大石林山を含む沖縄本島北部は、2021年7月26日にユネスコの世界遺産に登録されました。一年中緑に覆われた沖縄は、潮風に含まれるミネラルが植物に取り込まれ、ニガナ、ヨモギなど多くの野草が食べられています。人類は700万年もの間、ずっと森の中で暮らしてきましたが、大石林山のある沖縄北部の森は世界トップレベルの生物多様性に富み、人類が定住してきた環境がそのまま残っているそうです。
かつて沖縄県は「平均寿命全国1位」でしたが、直近では女性が7位、男性が36位と大幅に悪化しています。沖縄県の平均寿命が長かったのは、塩分量が適切で脂も少ない伝統的な沖縄料理を食べていたから。米軍基地の影響などでファストフードを食べるようになってからは、健康診断の結果も悪化していったとされていますが、今回視察をした沖縄県の北部エリアの大宜味村はデータからもまだまだ、健康長寿な地域です。
さまざまなバックボーンを持つ人たちが、実際に顔を合わせてお互いの専門知識を分け合い、交流することの価値を改めて感じました。コロナ以降、リアルで人と接する機会が減っていましたが、熱い研究に対する思いに触れ、元気をもらいました。幸せに生きることを見つめ直す機会になりました。自然と共生する生き方は、都会で暮らし働く人々にとって、心を整えることの大切さを思い知らされました。
机上で学ぶだけではなく、実際に足を運び、現地の人々と交流し、体感することには、5感のすべてに響く何かを感じた大いに収穫のあった視察となりました。
日本抗加齢医学会では、世界の注目を集めている大宜味村と協力をして、健康調査を行っていきたいと考えています。
・食べ物が大事。
・地元の食材を生かした伝統食で栄養のバランスを。
・自家農園で畑仕事が日課。
・急な坂道を歩くことで足腰を鍛えている。
・村の人たちとおしゃべりを楽しむ。
・人のつながり、助け合いこそ健康長寿の鍵。
・明日やるべきことがあることが大事。
・ストレスをつくらないこと(無理をしないこと)も大事。
・不便はいいこと。
青い海に面し緑豊かな環境の大宜味村は、1993年健康な高齢者の割合が日本で最も高い地域として「長寿日本一」を宣言しました。
●人口3063人(男性:1608人女性:1431人)
80代:255人 90代:156人 100歳以上:18人
65歳以上:39% 75歳以上:18% 80歳以上:14%
(大宜見村地区別年齢別人口集計表令和3年8月31日現在より)
位置・地勢面積63.55k㎡人口密度49.7人/k㎡(東京の人口密度15,411人)北緯26.36°~26.43°東経128.5°~128.12°に位置しています。
西は東シナ海に面し、東は沖縄本島を縦に二分する脊梁山地を境として東村に面し、北は田嘉里川をもって国頭村に、南は山岳帯の分水嶺を持って名護市に接しており、東西8km南北13.3km総面積63.55k㎡総面積の76%は森林で標高300m内外の山々が連なっており、その山々を源として、大保川をはじめ16の河川が東シナ海に注いでいます。
● 村の木:シークワーサー
● 村の花:シークワーサー
● 村の鳥:めじろ
ブルーゾーンという言葉は、ベルギーの人口学者ミシェル・プーランとイタリア人医師ジャンニ・ペスが、長寿者が多いイタリア・サルデーニャ島のバルバギア地方に、「青色マーカー」で印をつけたことに由来します。2004年からアメリカの研究者・作家であるダン・ベットナーが、ナショナルジオグラフィックと組んで調査を行い、『ナショナルジオグラフィック』の2005年11月号以降、新たに4つの「ブルーゾーン」を加えてその成果が発表されたことで周知されるようになりました。
ブルーゾーンに暮らす人々の食事や習慣には、共通する健康長寿の秘訣があるとして世界から注目を集めています。
世界のブルーゾーン
● イタリア:サルディニア島バルバキア
● アメリカ:カリフォルニア州ロマリンダ
● コスタリカ:ニコヤギ島
● ギリシャ:イカリア島
● 日本:沖縄大宜味