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人生100年時代の活力をつくる医学マガジン

2023年度第2日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー (2023年9月14日)ダイジェスト

講演1:体細胞変異と生物学的老化

佐野 宗一 先生
(国立循環器病研究センター 心血管モザイク研究室 独立型研究室長)

 体細胞変異(突然変異)によって隣り合う細胞の遺伝子に差異が形成される現象を、体細胞モザイクと呼んでいます。脳の神経細胞のように増殖しない細胞をはじめ、どんな組織にでも見られ、代謝の過程や加齢によって変異を蓄積することが分かっています。

 変異がある域まで達すると個体としての終わりになるのではないかという仮説から、暦年齢そのものより、変異の蓄積から計算される生物学的な年齢が健康や寿命には重要ではないか、と考えられています。

 血液も加齢とともに体細胞変異が増えてきます。骨髄の造血幹細胞にとって有意となる変異が出現し、長い年月を経て増加したものはクローン性造血(CHIP(チップ))と呼ばれ、70歳では10%の人が持っています。

 クローン性造血が増えてきたところに別の病原性(悪性)の変異が加わると血液がんに至ります。変異をもった造血幹細胞も血液を供給し続けるため、変異を受け継いだ白血球が心臓や組織でより多くの炎症を引き起こし、病気の悪化につながっていることが分かってきました。クローン性造血を持っている人は冠動脈疾患になるリスクが1.8倍になること、心不全の後、再入院や死亡が1.25倍に増えるなど、予後が悪くなることが分かってきました。また、骨粗鬆症や呼吸器疾患COPDの悪化や脂肪肝から炎症が起こって肝硬変になるパターンなど、クローン性造血が様々な病気を悪化させることが分かってきています。

 血液細胞からY染色体がなくってしまう現象LOY(Loss of Y Chromosome)は、70歳の男性の45%に見られます。LOYが起こると寿命が短くなる、アルツハイマー病や心不全の予後が悪くなるなど、クローン性造血とよく似た現象が見られるということが分かってきました。

講演2:循環器疾患や認知症を予測するバイオマーカー開発と課題

和賀 巌 先生
(フォーネスライフ株式会社 CTO/東北大学医学研究科 客員教授)

 ブルーライトを浴びる、長時間座っている、寂しい時間を過ごすなど、慢性疾患の原因の8割は生活習慣に起因するとも言われています。フォーネスライフ(株)は血液のビッグデータを治療のための早期発見ではなく、生活習慣を見直すためのツールとして社会実装を進めています。

 疾病リスクは、血液中の7,000種類のタンパク質を測定・数値化して予測しています。循環系疾患では4年以内の再発・初発のリスク、肺がんは5年以内、認知症は20年以内の発症リスクが予測でき、リスクの高い人には、コンシェルジュが疾患発症リスク軽減のための対策をアドバイスしています。

 遺伝子は一生変わらないため、生活習慣を変えても値は同じですが、タンパク質は値がどんどん変わってきます。いくつかのタンパク質が好ましい方向に変わっていくだけで、発症しにくい体質を手に入れられる可能性があります。

 また、体脂肪率、耐糖能、内臓脂肪のつき方、アルコールの影響、心肺持久力、安静時代謝量など、現在の体の状態も特定のタンパク質で読み解くことができるようになりました。体の状態には認知症改善のヒントが隠れていることから、リスクのある人に個々の原因を探して対策を働きかけています。

 食事介入の効果に関する研究も進んでおり、病気になりそうな人を見出して、集中的に働きかけをすることが可能になってきました。

 バイオマーカーの活用にあたっては、自治体との連携も始まっています。今まで自治体は住民に公平なサービスを提供してきましたが、ハイリスクの人を民間企業と共に見つけ出し、病院が予防医療を集中的に提供します。結果として患者さんを減らし、削減された医療費を運営費に回すという成果連動型にすることで、持続可能な地域医療が構築できると考えています。血液のビッグデータから健康状態を把握し、情報提供することで生活習慣を見直してもらうという取り組みを、熊本県荒尾市をはじめ、全国で始めています。

講演3:人生100年時代の予防医療とは アンチエイジングをどういかす!― コンヴィヴィアリティ (conviviality) の創造

伊藤 裕 先生
(慶應義塾大学予防医療センター 特任教授)

 年間世界では5,700万人以上の人が死亡していて、その原因の約7割は非感染性疾患と言われています。非感染性疾患は生体情報にゆらぎが見られる未病から始まり、老化をベースに進んでいきます。未病の状態で検査所見の変動を管理することが非常に重要です。

 予防医療を考えるうえでは自分の健康に向き合うことが重要で、他者と励ましあうことで仲間意識が生まれ、自発的な行動変容につながることが期待されています。

 百寿者の疾病には、糖尿病の罹患率が非常に低いという特徴があります。 カロリー制限による寿命の延長に加え、がん、心血管疾患、糖尿病、認知症も少なくなり、健康寿命を延伸できることが示されています。

 腎臓の老化であるCKD(慢性腎臓病)の発生メカニズムの解明を通じて、NMNの人への投与が老化全体の抑制につながるという研究結果を発表しました。アンチエイジングには老化細胞を除去するだけではなく、NMNの補充によってステムセルを刺激することが重要だと考えています。

 高脂肪食の摂取によって引き起こされるメタボリックシンドロームという未病の状態では、腸管のNAMPT-NAD+合成系が抑制され、体重を減らす効果があるGLP-1の分泌が低下しています。腸管NAD+は腸管内分泌機能を含めた健康の維持において非常に重要であり、また、老化がマザー疾患になっている可能性があることから、未病状態の方にNMNを補充することは有効であると考えています。

 未病に対して、ビッグデータサイエンスからアプローチした先にWell-beingが待っているという考えもありますが、自分とは異なる他者と出会い、多様性の中でお互いの特異性・自発性を十分尊重し合いながら、同じ場所・時間を分かち合えるようなコンヴィヴィアリティの状態を達成することでWell-beingが待っていると考えています。

講演4:第5回ヘルスケアベンチャー大賞への招待

福田 伸生 様
(バイオ・サイト・キャピタル株式会社 専務取締役)

 2019年から始まったヘルスケアベンチャー対象は今年で5回目を迎えます。日本抗加齢医学会と日本抗加齢協会の共催で、「アンチエイジングからイノベーションを」と標榜いたしまして、アンチエイジングに資するヘルケア分野のビジネスプランやアイディアを募集しました。インベンション、コマーシャライゼーション、社会貢献の観点から複合的に判断し、優劣をつけることになります。

 すでに書類選考を終えており、最終審査会では5社と2名のファイナリストに大賞を目指して競っていただく予定です。 個人の応募に対してはアイディア賞が、企業の応募に対しては、ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞も用意しています。大賞と学会賞の受賞者には、第24回日本抗加齢医学会総会のシンポジウムでの発表機会が与えられます。

 今回の特別講演では、慶應義塾大学名誉教授で眼科系疾患の予防や治療法を開発する株式会社坪田ラボ設立者、代表取締役C E Oの坪田一男先生にご講演いただきます。

 最終審査会は10月27日(金)の午後3時から日本橋ライフサイエンスハブにて開催されます。ウェブでの視聴も可能となっていますので、ぜひ事前登録の上、ご参加ください。

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