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2023年度 日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー 特別企画(2023年4月4日) 「少子化の現状対策をアンチエイジング医学から考える」 ダイジェスト

講演1:少子化対策を医学から考える-男性医療の観点で-

井手 久満 先生(順天堂大学大学院医学研究科 デジタルセラピューティックス講座)

 国勢調査によると男性の生涯未婚率は3割を超え、さらに恋愛には興味がない絶食系男子が増えていると言われています。一般的に、結婚をして子供を産むということが減っている上、晩婚化による不妊症は特別なことではなく、男性が不妊の原因に関わる割合は48%にのぼっています。

 世界的なデータとして精子数は過去40年間に50-60%も減少しているという報告がなされており、精子数の減少は世界的な傾向であることが示されています。
精子が様々な酸化ストレスを受けることでDNAが損傷し(DNA断片化)、男性不妊の原因となっています。精子DNA断片化は胚発生の停止や妊娠率の低下、流産率の上昇に深く関与しているという報告があります。

 精子DNA断片化の原因である精索静脈瘤は、瘤により怒張した静脈が逆流し陰嚢内の温度が上昇する疾患です。エコーにより簡単に診断ができ、外科手術による治療を行います。また、発熱によって一時的に精液濃度・運動率が低くなり、精子DNA断片化指数(DFI)が高くなることが確認されています。その他にタイトな下着の着用は陰嚢温度上昇による精巣損傷、精子形成障害につながるということも分かってきています。

 不妊症の原因には、男性ホルモン(テストステロン)の低下も挙げられます。精子DNAの損傷率を見てみると、テストステロンの低い人に統計学的に有意に多くみられることから、テストステロンを正常レベルに維持することが精子の質を保つことにつながるかもしれません。

 テストステロンの測定ではより低侵襲な検体を用いる研究が進んでいます。その中でも日内変動に影響されず、3〜6か月前の数週間分の平均的な生体情報が保存されている爪を検査試料とした測定方法は、LOH症候群の診断指標としてのポテンシャルが大きいと感じています。

 男性医療の観点で少子化対策を考えた場合、男性はまず、自分の精子や男性ホルモンの活動量などのセルフチェックと精子へのダメージを防ぐための精巣ケアや美容、フレグランス、アロマといったメルテックが重要になってくると考えています。

講演2:ヒトの生殖機能にアンチエイジングは可能なのか?~不妊治療でできること・できないこと~

 太田 邦明 先生(東京労災病院産婦人科)

 40歳を過ぎると妊孕率が急速に減少し、70%以上の人が不妊症に陥ってしまいます。

  保険適用になる不妊治療には、一般不妊治療と生殖補助医療があり、一般不妊治療は排卵の時期を探すことがメインで、生殖補助医療というのは主に体外受精などをさしています。

 一般不妊治療を受けても年齢によって差が出てくることから、エイジングは不妊症の大きな壁であると言えます。

 体外受精は1978年にイギリスで初めて成功し、その時に生まれた女性が自然妊娠で出産をしたことから、不妊症は遺伝しないということが分かっています。
体外受精の最大のメリットは複数の卵子を採取できることで、ほとんどの胚は冷凍保存されています。

出生児の13人に1人が体外受精で生まれてきており、そのうち約92%が凍結胚移植をされています。

 一般不妊治療で効果がなかった人が体外受精を行うことになりますが、年齢が上がれば上がるほど妊娠は難しくなり、流産の事例が増えてくることから、最新の不妊治療でも少子化対策は完全には困難であるといえます。

 その理由は、加齢とともに卵巣が萎縮し、卵子数の減少と質の低下が進むからです。この卵巣のエイジングは不可逆的なもので特効薬はありません。

 子宮が残っていれば第三者からの卵子提供により出産は可能ですが、日本ではなかなか難しいというのが現状です。

 先制医療として若い時の卵子を凍結しておくという方法があります。日本でも健康な女性が生殖能力の高いうちに卵子を凍結する件数が増えています。東京都や企業の支援が増えてきていることから、今後は卵子凍結がアンチエイジングのトレンドになるかもしれません。

 ただし、卵子凍結は通常不妊治療で用いる受精卵の凍結に比べ、凍結融解する際に胚がダメージを受け、使用できない割合が高いことに注意が必要です。

 また、高齢出産や不妊症・体外受精出産のリスクを考えると、若いころに卵子凍結をして高齢で妊娠・出産をするということは可能であれば避けて欲しいと思います。

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