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2023年度 第4回日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー (2024年 3月21日)ダイジェスト

講演1:外科治療における高齢者医療の現状と課題について

森 正樹 先生
(東海大学副学長/医学部長)

 85歳以上の胃がん患者の中で手術を受けた人の約半数は2年以内に亡くなっているという調査結果があり、手術を受けたことが人生のプラスになっているかの判断は非常に難しいと言えます。手術による根治性を高めることと手術後のQOLを高めることを成り立たせるのは難しく、高齢がん患者に対する治療法は外科医の間でも意見が分かれています。

 高齢者には糖尿病、脂質異常症や高血圧症の方が多いという問題があり、これらの人は術後合併症の発症率が高くなる傾向があります。高齢患者の場合、個人差が極めて大きいことから、医療従事者間で共通認識を持つために、どの程度臨床的に弱っているかを示すCLINICAL FRAILTY SCALEが使用されています。また、手術時のリスク評価としてPOSSUM Scoreがよく使用されています。

 80歳以上の胃がん患者ではサルコペニアを持っている人は持っていない人よりも約4倍重い合併症を発生することが分かっており、術前の有病率の診断が重要になります。日本ではNational Clinical Databaseが作成され、1,000万を超える手術データを基に患者データを入力すれば即時に術後リスクの予測値が算出できるようになっています。また、AI歩行解析による術前リスク評価も行われています。

 現在、高齢者に対するがん手術に関しては、身体機能評価に精神学評価や認識機能評価を加えた総合的機能評価で問題がないとされる場合に手術が行われています。

 18歳以上を対象にした研究では、術前にリハビリテーション治療を受けることで術後呼吸器合併症の発生率が下がるという結果が出ています。高齢がん患者に対しても、フレイル改善を目指した術前のリハビリテーションは有効だと考えられ、今後は80歳、90歳以上に限定した研究が望まれます。

 少子高齢化が進むことで医療費が増加し、若年者の負担が増えるという現状があります。「自分たちが納めた税金が高齢者に使われる」といった不満が出ない社会の実現に向けて、若年者には長生きできるようにしっかりとした手術をすべきであり、高齢者には生存期間ではなく、自分らしく生きていくための外科治療をすべきだと考えます。

講演2:循環器疾患領域における高齢者医療の現状と課題

岡村 誉之 先生
(山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 准教授)

 循環器病による死亡数は65歳以上で急増し、80歳、90歳以上になると非常に多くなる特徴があります。代表的な循環器病は心筋梗塞、大動脈弁狭窄症、心房細動、脳血管障害、高血圧です。これらを含めあらゆる心疾患の進行により心臓のポンプ機能が低下し、鬱血、低拍出によって様々な症状が表れた状態が心不全です。全患者数の約3割が80歳以上です。

 心不全の治療は薬物療法が基本になります。Fantastic4と呼ばれる新しい心不全治療薬を用いた包括的治療は、従来の薬物治療に比べて臨床的な有効性が証明されています。症状が進み、薬物療法ではコントロールが難しい場合には医療機器を用いた非薬物療法を行います。

 心不全の原因となる疾患に対して適切なタイミングで適切な治療を加えることによって、心臓の機能を温存することが可能になります。脈が乱れ心臓の効率が悪くなる心房細動には、カテーテルを用いたアブレーション治療が有効です。息切れ、失神、胸の痛みを伴う大動脈弁狭窄症には、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)が用いられます。そして、心臓の冠動脈血管の閉塞によって生じる心筋梗塞に対しては、カテーテルを使って閉塞部を確認し、金属の網目状の器具を留置して血流を回復させるプライマリーPCIが非常に有効です。これらは低侵襲のため、高齢者でも治療が可能です。

 改善効果の高い治療を受けた後でも、原疾患の進行による心臓機能低下、感染症の罹患、休薬、塩分摂取の増加など様々な要因で心不全が悪化し、しばしば再入院が必要となります。高齢者の場合、入院期間が長くなりやすく、認知機能や身体機能低下につながった結果、家族の負担や、医療、介護リソースの負荷が大きくなるという問題があります。心不全が進行しないよう生活習慣の見直し、改善も重要です。

 心疾患とその終末病である心不全の早期発見と治療は一つの社会問題と考えられ、医療機関のみならず地域全体で様々な職種が連携して発症や重症化を防ぐための体制づくりが急務となっています。また、循環器病は生活習慣が影響していること、日本人は塩分摂取過多であることなど、啓発活動や教育を通じて循環器病を予防する取り組みが重要です。

講演3:口腔からはじめる認知症ケアの新戦略

松下 健二 先生
(国立長寿医療研究センター 口腔疾患研究部 部長)

 日本の認知症患者の数は世界的に見ても多く、2060年には1,000万人を超え、65歳以上の3人に1人が認知症にかかると推計されています。現在、認知症を根治する薬はないため、危険因子や認知症の発症・進行を抑制する因子を特定し、安価で簡単な予防や進行の抑制方法の開発が急務となっています。

 アルツハイマー病は、まず人体の司令塔である大脳と学習と記憶等に関わる海馬に影響を及ぼします。脳は手と口から情報を得て、手と口に色々な情報を出していることから、口腔機能の低下は脳機能の低下につながると考えられます。

 咀嚼は脳内の酸素濃度を上昇させ、脳血流を増加させることから、咀嚼機能の低下は、認知機能低下やうつ病発症に関連すると言われています。噛めないことは低栄養につながり、アルツハイマー病をはじめ様々な老年病やフレイルの重大なリスクファクターになると考えられています。

 咀嚼機能は自分の歯がどのくらい残っているかに大きく依存しており、多歯欠損の患者は認知症の発症率が高くなっています。また、歯周病がある人はない人に比べアルツハイマー病を発症するリスクが1.7倍に増加することや、認知機能の低下スピードが早いことが報告されています。

 認知症の進行と口腔状態の変化では、認知症が進行するにつれ口腔清掃意欲の低下が見られ、低栄養、口腔清掃不良、歯周病の悪化、滑舌、嚥下機能の低下が観察されます。

 奥歯を抜歯したマウスや軟食飼育を続けたマウスには、学習・認知機能・運動協調性の低下や攻撃性の増加などの症状が見られることから、歯根膜から三叉神経を通じた脳への刺激が減少することは認知症の発症や進行に影響すると言えます。これらのマウスにカプサイシンを投与すると、三叉神経経由のシグナルが回復し、学習・認知機能や運動平衡性が回復するとともに、脳神経細胞の減少と神経炎症が抑制されるという結果が出ています。

 高齢者においては歯を残すことが非常に大切で、特に高齢者で増加する歯周病を予防することが重要です。

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