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2023年度 第3回日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー (2023年12月7日)ダイジェスト

講演1:AIや多様なデバイスを活用した認知症診断

山下 徹 先生
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科学講座 准教授)

 認知症の原因となる疾患で一番多いアルツハイマー病の場合、75歳前後の方が非常に多いのですが、50歳頃から病気が徐々に進行しているというデータが出ています。メタボリック症候群や高血圧などの生活習慣病を放置することで体内にアミロイドベータがたまり始め、65歳前後には脳の中にたまってくると言われています。さらにこの上に神経毒性のあるリン酸化タウ蛋白が沈着を始めると神経細胞死が起こり、脳が萎縮し、認知症を発症するということが分かってきました。

 アミロイドベータを標的とする抗体療法が日本でも開始されようとしていますが、治療効果を得るためには早期発見が大切です。現在主流の診療認知機能検査は時間がかかるのが問題で、補助検査も侵襲的、高額、実施可能施設が限定されるといった課題があります。

 そのため、AI等の技術を活用し、安価で簡単な認知症診療として、目の動きを解析する方法やターメリックに含まれるクルクミンを内服して網膜に沈着したアミロイドベータを検出するという研究を進めています。また、血中のタンパク質断片(ペプチド)を用いたバイオマーカー探索の研究では、アルツハイマー病の方には凝固・補体・抗炎症のペプチド断片が多いことが分かっています。

 パーキンソン病患者には表情が乏しくなる仮面様顔貌の症状がありますが、AIを用いて見た目年齢と感情の解析を行ったところ、正常者より老けて見える、喜びが少ないということが示されました。AIによる顔分析が感情の分析に使用できる結果が得られたことから、認知症患者に対する化粧療法の可能性について研究を行いました。結果、介入直後にBPSD(認知症の行動・心理症状)に改善が見られ、化粧の施術前後で喜びのパーセンテージが10%以上増加しており、感情に大きく作用することが分かりました。また、長期的にみると、日常生活動作(ADL)も改善する傾向があることから、気持ちが改善するのは感情的にも良い効果があり、認知機能の改善につながると考えています。

講演2:アイトラッキング式認知機能評価法の開発と社会実装・海外展開まで

武田 朱公 先生
(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座 准教授)

 認知症の危険要因は、高血圧、肥満、糖尿病、喫煙など介入が可能で、けることのできる因子が35~40%を占めています。認知症はゆっくりと進行するため、軽度認知障害(MCI)の時点で早めに気付いて介入することが重要です。また、アルツハイマー病に対する根本的な治療法は早期の患者に限定されることから、早期発見の重要性が増しています。一方で、全体の75%の認知症患者は未診断のまま放置されていると言われています。特に開発途上国の診断率は非常に低く、10%以下と言われていることから、安価で、特殊な機器が不要、短時間で終わる、言語依存性が低い早期の診断スクリーニングツールが求められています。

 従来広く使われている認知機能検査は患者の心理的なストレスが大きいことが課題でした。医療者にも負担が大きい、採点がばらつくといった課題もあり、これらを解決するために開発したのがアイトラッキング式認知機能評価アプリです。
モニター上に映し出されたタスク映像を見ている患者の目の動きをアイトラッキング法で記録し、視線のデータを定量評価し、認知機能スコアを出すという仕組みです。

 2023年10月に日本初の認知症診療支援をする神経心理検査用プログラム医療機器として薬事承認され、2024年春には「ミレボ」という商品名で全国の医療機関向けに販売が開始される予定です。

 また、ヘルスケア領域でも、住民健診でのスクリーニング検査、運転免許センターでの高齢者の適正検査といった方面で検証を進めている段階です。

 問診検査に比べると圧倒的に言語依存性が低い検査であるため、認知症が非常に増えているASEAN地域をはじめ13の国の言語に翻訳したものを作り、権利化を進めています。

 世界中で使用してもらえるプログラム医療機器を開発し、輸出することで輸入超過となっている医療機器産業の構造問題にも貢献していきたいと考えています。

講演3:資産管理と認知症

成本 迅 先生
(京都府立医科大学大学院医学研究科 精神機能病態学 教授)

 2023年6月に成立した認知症基本法では、基本的施策の4番に「認知症の人の意思決定の支援及び権利利益の保護」が掲げられており、法案の17条において、適切な支援、指針の策定、情報提供の促進、消費生活における被害防止のための啓発等の施策を実施することが謳われています。

 認知症の方の意思がきちんと反映されながら生活を送ることができるようにするために、元気なときから啓発をし、今後起きる可能性のある様々なトラブルを予防するための備えについて教育することが重要だと考えています。

 認知症の原因疾患の多くの割合を占めるアルツハイマー型認知症の場合、ゆっくりと進行するため、36%の人が医療機関を受診するまでに1年以上かかっており、20%の人が初診から確定診断にいたるまで1年以上かかっています。認知症と気付かないまま暮らしている方が非常に多く存在し、経済活動にまつわる様々なトラブルが発生しています。

 このような問題を解決するために意思決定支援の面から研究開発を進めており、研究成果を社会実装するための機構として意思決定サポートセンターを設立、金融機関高齢顧客対応ワーキング・グループを立ち上げて認知症対応の向上を目指して活動しています。

 金融取引のうち、日常生活の維持に直結する支払機能については、判断能力が低下しても取引ができる仕組みづくりの提案をしており、資産運用や遺言関連の残すといった複雑な取引の理解が必要になる機能については、取引の可否を判断できる仕組みづくりが必要と考えています。医療分野では、アドバンス・ケア・プランニングといって認知症になる前に自分の意思を伝えておくことが推奨されていることから、金融商品作りにも活かしてもらいたいと考え、認知症の発症前後でどのようなことが起きるのかといった情報を金融機関の方に提供し、商品開発に役立ててもらっています。

 その他に、銀行ジェロントロジスト認定試験や認知症の意思決定支援研修を実施したり、遺言による家族間紛争の予防を目的として、遺言能力の観察式チェックリストや遺言能力スクリーニング検査法を開発し、提供しています。

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