2024年度 第1回日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー (2024年 5月14日)ダイジェスト
- イベントレポート
- 2024年7月7日
2024年7月に発行される新1000円札の顔となる北里柴三郎先生は熊本県出身であり、熊本大学医学部とも深い縁があります。彼の精神を受け継ぐ学会を目指し、少子高齢化社会の現状について考察するシンポジウムが計画されています。
日本の人口構造はピラミッド型からダンベル型に変わり、2050年には1.2人の若者が1人の高齢者を支えると予測されています。70歳以上を高齢者と定義すると、2065年でも2.4人の若者が1人の高齢者を支えることができるため、社会構造の持続可能性が示唆されています。しかし、健康寿命の延伸が重要です。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されない期間を指し、平均寿命との差は縮まっているものの、男女間では依然として約10年の差があります。
熊本県は「不健康で長生き県」とされ、この状況を改善するために抗加齢に関する正しい情報を市民に提供し、啓発活動を行っています。「実学創造~老化制御の一新紀元~」と題したシンポジウムが計画されており、北里柴三郎先生の玄孫である北里秀雄先生や慶應義塾大学の伊藤裕先生、中神先生が講演する予定です。これらの講演では、予防医学の進化や感染症ワクチンの進化についても触れます。
長寿者の特徴についての研究では、心臓機能や栄養状態が良好であることが示されています。老化細胞の増加が慢性炎症を引き起こし、様々な病気の原因となることも指摘され、老化細胞を取り除くことで寿命が延びることが確認されています。運動不足や肥満が老化細胞の増加を促進することも明らかになっており、ミトコンドリアの働きが注目されています。ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給する役割を持ちますが、加齢に伴いその機能が低下します。ミトコンドリアの数を増やすことで、心臓機能や運動能力が改善されることが示されています。見た目年齢と実際の健康状態の関連性も重要です。見た目年齢が若い人は他の臓器の細胞も若さを保っている可能性が高く、老化細胞の出現や増加を遅らせることが健康寿命の延伸に繋がると強調されています。
今回の学会では、会長企画シンポジウムとしてミトコンドリアの研究に焦点を当てたシンポジウムが企画されており、老化細胞の除去や慢性炎症の抑制、ミトコンドリアの機能改善に関する最新の研究成果が発表されます。老化に伴う疾患の予防や治療に役立つ知見が期待されています。炎症状況を測定して老化細胞の量を推測する試みも紹介され、生活習慣の改善によって老化細胞の増加を抑え、減少させることが可能であることが示されています。
最新のテクノロジーや研究により、老化を予測し制御することが可能になってきました。老化細胞の除去に関する最新研究や疾患発症の予測技術についても紹介されます。
これらの知見を発信するために、第24回日本抗加齢医学会総会に是非ご参加ください。
コホート研究は、人々を長期的に追跡する重要な研究手法です。今回は、介入せずに得られた情報から将来を予測する意義についてお話します。
日本では内科系の医師が多忙で、コホート研究が海外ほど進展していません。しかし、健康長寿の時代を迎え、日本人を対象としたコホート研究が重要になっています。尾池先生の講演にもありましたが、老化のメカニズムを明らかにすることで、健康長寿に繋がる様々な方策が提案されています。細胞老化を減少させる薬物や、慢性炎症の重要性に関する研究も進んでおり、腸内環境の研究も注目されています。
私たちには暦年齢と生物学的年齢があり、コホート研究により、生物学的年齢が異なることが明らかになっています。スピード老化型とスロー老化型が存在し、同じ暦年齢でも老化の進行速度が異なります。今回の総会では、老化時計の測定方法が議論されます。エピジェネティック時計の第一人者であるホバーツ先生の講演も予定されています。エピジェネティック時計は、世界中で異なる手法を用いて進められていますが、日本では臨床応用がまだ進んでいません。しかし、プロテオミクスやメタボロミクスなどの技術は急速に進歩しており、生物学的年齢の測定に応用される試みが増えています。
血液や採血以外にも、身体機能や運動機能が老化時計として重要であることが分かっています。握力や歩行速度などのデータは、将来の健康状態を予測する重要なマーカーです。アンケート調査や主観的なマーカーも取り入れ、複雑な老化プロセスを解明する必要があります。
私自身は腸内細菌の研究を進めており、腸内細菌の多様性が老化に影響を与えることが分かっています。腸内細菌の多様性が高いほど寿命が長い可能性があります。腸内細菌を用いた老化クロックの開発も進められており、遺伝子情報や代謝物を基にしたクロックの構築が期待されています。例えば、腸内細菌がコレステロールを分解することで、血中コレステロールが上がらないことが報告されています。
今回のシンポジウムには二宮先生と松田先生が講演されます。二宮先生は久山町研究を引っ張って来られ、70年近くのデータを基にした認知症コホート研究についてお話しされます。久山町研究は日本人の集団を代表する重要な研究であり、認知症に関する新しい情報が得られることを期待しています。松田先生は長浜スタディを引っ張っておられ、ゲノムコホートに関する研究を行っています。ゲノム情報を基にした抗加齢の応用についての講演が期待されます。長浜コホート研究では、腸内細菌や代謝物に関するデータも収集されており、健康長寿に関する新しい知見が得られることでしょう。
私たちの京丹後長寿コホートは2017年に始まり、まだ初期段階ですが、フレイルに関する研究を進めています。フレイルは要介護の一歩手前の状態であり、早期発見と介入が健康長寿に重要です。フレイルインデックスを用いて住民の健康状態を評価し、データを解析しています。皆様も是非ご参加いただき、健康長寿に関する新しい知見を得ていただければ幸いです。
ここ10年ほど、ワクチン治療法に特化した研究を行っており、世界的には感染症以外にも様々な疾患に対するワクチン開発が進んでいます。特に認知症や高血圧、ニコチン・コカイン中毒症、老化そのものに対するワクチンが研究されています。自分たちも感染症以外のワクチンがどのように使えるかを検討しており、マウスなどのモデル動物を使って研究を行っています。
ワクチンのターゲットは広がっており、生活習慣病にも焦点を当てています。生活習慣病に対するワクチンが社会に実装された場合、複数の薬を日常的に服用する高齢者の負担を減らすことができるかもしれません。 ワクチン治療は年に数回の投与で済むため、通院回数が減り、在宅での健康管理が求められるようになるでしょう。DX技術を活用した健康管理が求められ、個別化医療の進展も必要です。
研究の一例として、尾池先生との共同研究があります。肝臓で作られるタンパク質ANGPTL3に対するワクチンを作成し、脂質異常症の改善効果が得られました。この成果は非常に有望で、同様のコンセプトを持つ抗体治療薬がアメリカで承認されていることから、ワクチン治療も実現可能であると考えています。
また、脂質異常症に対してはPCSK9に対する核酸医薬(siRNA)の治療法が既に開発されており、これは長期間にわたりLDLコレステロール値を下げる効果が確認されています。このようなロングアクティングな薬が生活習慣病に実現されつつある現状を紹介しました。
私たちは認知症に対するワクチンの開発についても取り組んでいます。タウタンパク質に対するワクチンを開発し、認知症の進行を抑制する仮説を検証しています。また、老化細胞除去に関するワクチンも研究しており、脂肪に蓄積する老化T細胞を除去することで、糖尿病の改善効果が確認されました。このような新しい技術を発展させることで、将来的に老化そのものを制御することができるかもしれません。
さらに、カロリー制限やエネルギー代謝に関する老化研究についても触れたいと思います。マウスでは寿命延長効果が確認されていますが、ヒトではエンドポイントが難しく、老化臨床研究が進展していない状況です。アメリカでは老化関連疾患の複合エンドポイントで測る試験が行われており、メトホルミンを用いた試験が進行中です。このような試験は大規模なものであり、バイオマーカーの活用が期待されます。
老化そのものを予防するワクチンの研究も進んでいます。老化細胞除去の概念に基づく治療法では、脂肪に蓄積する老化T細胞を除去することで糖尿病の改善が見られました。順天堂大学の南野先生の研究では、新たな老化抗原に対するワクチンが老化関連疾患を抑制する効果が示されています。
ヒトへの応用には課題がありますが、アメリカで行われているメトホルミンを使った老化関連疾患の複合エンドポイント試験などが参考になります。これをさらに発展させた形での、バイオマーカーを活用した試験の進展が期待されます。 今回の総会では、老化細胞除去や新たな予測マーカーに関する最先端の研究が紹介される予定で、非常に楽しみにしています。
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