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日本抗加齢医学会 2021年度第1回メディアセミナー開催報告(2021年4月20日)

講演1:老化細胞除去薬の衝撃

中西 真 先生(東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授)

 慢性炎症は老化や多様な加齢性疾患の基礎となります。炎症を誘発する細胞には、免疫細胞と非免疫細胞の2種類があり、私が研究しているのは非免疫細胞です。非免疫細胞が加齢に伴い増加していき、さらに個体にとっては不要なのではないかと予想されました。

 老化細胞の除去により、炎症を抑制し、加齢を改善できる可能性があります。

 老化細胞は増殖できない細胞であり、酸化的ストレス、テロメア異常、非テロメア性DNA損傷などによって細胞老化が起こります。細胞老化の特徴としては、恒久的な分裂停止やアポトーシス(自死)抵抗性のほか、さらに重要な特徴として細胞老化関連分泌因子(炎症を誘発するような因子)を出します。

 老化したマウスの各臓器を見ても老化細胞が蓄積されていることが分かっています。2ヶ月齢と10ヶ月齢のマウスで肺の老化細胞を比較すると、肺の中心部に老化細胞が見られ、10ヶ月齢のマウスの肺ではさらに老化細胞が増加していました。この結果をみるとヒトでも、呼吸で入ってくるダストや化学物質によって刺激を受けて老化細胞が増え、徐々に広がっていくことが考えられます。

 さらに老化細胞の生存に必要な遺伝子は、アミノ酸の一種グルタミン酸を代謝する酵素GLS1であることが判明し、GLS1を阻害することで老化細胞を致死させることができるのではと考えました。加齢個体にGLS1阻害剤を投与してみると、腎機能・肺の線維化・肝機能が改善、及び免疫力、高脂肪食による動脈硬化の改善が見られました。つまり、筋力の維持、健康寿命の増進、脂肪組織の退縮抑制が可能であることがわかりました。

 ヒト個体でもリソソーム不全細胞が加齢に伴い増加することがすでに示されています。したがって、老年病を治療していくのではなく、GLS1阻害による老化細胞の除去によって老年病を一網打尽にするような治療が将来的に可能となることが期待されます。

講演2: ポストコロナにおけるmRNA医薬品の抗加齢医学への応用

堀江 重郎 先生 (日本抗加齢医学会理事長、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)

 コロナウイルスのワクチンは、米ファイザー/独ビオンテックをはじめ、日本でも第一三共が開発しています。各社のワクチン構造をご紹介すると、ファイザー社のワクチンは脂質ナノ粒子(LNP)の中にmRNAを入れることによって安定性を実現している点がカギとなっています。LNPは様々な脂質で構成されているが、その中の1つポリエチレングリコール(PEG)がアナフィラキシーの原因なのではと言われています。新型コロナウイルス向けmRNAワクチンがどう働くかというと、LNP脂質に取り込み、細胞に運びこみやすくすることによって細胞内でスパイクタンパク質を合成し、中和抗体が産生されます。

 細胞内にmRNAが適切に輸送されれば、好きなタンパク質を作ることが可能になります。

 mRNAを高分子ミセルへ内包することでmRNAの分解防止やmRNAによる免疫反応を抑え、持続的なタンパク質を産生できれば、アルツハイマー病・パーキンソン病・脳腫瘍などの難治性の中枢神経系疾患治療への応用が期待されています。

 コロナ禍によって、遠隔医療の促進をはじめ、女性従業員の健康支援(PMS、妊活、更年期障害など)をする企業が増えました。一方で、コロナ太りが懸念されています。首都圏への通勤はランニング1時間に相当しており、テレワーク下での運動不足解消が課題となっています。テレワークと長時間労働はワークライフバランスに良くない影響があることがわかっており、2019年に比較すると2020年は自殺者増となりました。

 精神の健康のためには、心のホルモンを考えてみることも重要です。自分が愛されていると感じる時などに分泌されるオキシトシン。そのサイクルは、オキシトシンが高まると、共感が生まれ、道徳的行動につながり、信頼を得てオキシトシンがまた高まることにつながります。オキシトシンは他者と接することによっても分泌され、同時にセロトニンによる満足感やドーパミンが分泌されます。他者とつながることによって、やる気がわいたり、満足感などが得られたりするのです。

 テロメアの長さはうつ病、動脈硬化、心臓病などの頻度と関連しています。テロメアを長くするには、男性ホルモンの代表格であるテストステロン、運動、瞑想などが有効であり、逆に喫煙や悲観的な考え、心理的なストレスはテロメアを短くしてしまいます。また、オキシトシンは女性のテロメアを伸ばし、テストステロンは男性のテロメアを伸ばす傾向があることもわかっています。

 免疫力アップやワクチン接種後の抗体を作りやすくするためには、他者と接したり、グループで仕事を達成したりすることによってオキシトシンを高め、テロメアを伸ばすことが奨励されます。テロメア研究でノーベル生理学・医学賞を受賞したエリザベス・ブラックバーン博士と共に、主にヒトでの研究を進めたエリッサ・エペル博士が今回の第21回総会にて映像で登壇します。皆様にはぜひご覧いただきたいです。

講演3:第21回日本抗加齢医学会総会の見どころ&腸内細菌最新情報

内藤 裕二 先生 (第21回日本抗加齢医学会総会会長、京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座寄附講座教授)

 無菌環境では多くの病気の発症が抑制されることがわかっていました。昨今盛んに行われている筋萎縮性側索硬化症(ALS)については、ALSマウスは無菌環境にすると早期に死に至るという研究結果が2019年Natureに掲載されました。このことから逆に言えば、腸内細菌は神経保護物質を作っているのではという可能性が示されました。

 ALSマウスの腸内細菌叢研究からAkkermansia菌が代謝しニコチンアミドを作っており、神経保護作用を示しているのではないかという仮説が提唱されました。ALS患者では血清濃度や脳脊髄液でニコチンアミド生成が低下していることが判明しており、ニコチンアミドが神経保護作用にとって極めて重要な物質だということがわかっています。

 わたしの研究分野は食物と栄養素なので、食物によってこのAkkermansia菌を増やせるのではと考えました。日本人がよく飲んでいるお茶(グリーンティーポリフェノール)によってAkkermansia菌が増えることは最近の私の研究で明らかとなっています。

 Akkermansia菌が増えるメリットも研究されており、早老症マウスを作成して行われた腸内細菌叢の研究成果から、Akkermansia菌は老化そのものを制御している可能性が示唆されました。Akkermansia菌が胆汁酸を回復させ、抗老化に作用していると考えられ、長寿菌なのではともいわれております。

 菌そのものだけでなく、代謝物、新たな老化へのアプローチのための研究が進んでおり、短鎖脂肪酸、胆汁酸代謝物やポリアミン、NAD前駆体などが注目されています。

 食・栄養分野では地中海食が注目されており、日本食を凌ぐ勢いです。地中海食は糖尿病発症予防につながり、心血管障害による死亡率を抑制、炎症性腸疾患の死亡率を低下させる効果があることが示されています。ただし日本人にとって地中海食が有効かは未解明です。

 地中海食の効果も腸内細菌叢を介して得られることが研究で判明しています。さらにグリーンメディテラニアンダイエット(肉を抜いた地中海食)が脂肪肝を減少させるという研究もされています。このグリーンメディテラニアンダイエットこそが脂肪除去食なのではと思っています。

 対して日本食についても研究の余地があり、1975年の日本食をマウスに投与した結果、2005年の日本食を与えたマウスよりも脂肪肝、発症リスクも糖尿病発症リスクが低いことがわかっています。

 第21回総会では、食についてはFoods /Nutrition Trackを用意し、食事療法や具体的な健康食品セッション、具体的な栄養セッションの他、日本食VS.地中海食をテーマとしたイブニングセミナーを視聴いただけるようにいたします。ご期待ください。

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