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人生100年時代の活力をつくる医学マガジン

日本抗加齢医学会 2020年度第1回メディアセミナー・ダイジェスト

【座長】
中神 啓徳 先生 広報委員会委員長 
大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座教授

【講演1】第20回日本抗加齢医学会総会トピックス 

南野 徹 副理事長 
第20回総会大会長
新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器内科学教授

 6月12~14日に新潟の朱鷺メッセで開催の予定だった「第20回日本抗加齢医学会総会」は今回の新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から残念ながら延期となってしまいましたが、9月25~27日に浜松町のコンベンションホールで3日間フル開催いたします。

 現在、9会場を確保し最大収容人数500名弱、3密にならないように配慮しながらライブ、オンタイム、オンデマンドの3ハイブリットでの開催を予定しております。

 Healthy Agingのための学会ステイトメント(ガイドライン)に関しては、健康寿命延伸のエビデンスが蓄積されつつある「食事」「運動」「サプリメント」「性ホルモン」の4分野でチームを設置し、今後のガイドライン策定に向けた動きを発表していただきます。そのほかにも当初予定されていたほとんどのカリキュラムがそのまま開催される予定ですので、多くの皆様にご参加いただければと思います。

【詳細・申し込み】
http://www.c-linkage.co.jp/jaam2020/

 さて、私の最近の研究について少しお話しさせていただきます。そもそも我々の細胞には寿命があります。ストレスや加齢にともなって老化細胞が蓄積してくると、その老化細胞は炎症物質を分泌します。若い時は免疫細胞がその炎症物質を除去してくれますが、加齢等に伴って免疫細胞がその炎症物質を除去しきれなくなると組織の修復能力が低下し病的臓器老化が進んできます。これが細胞老化仮説です。

 老化細胞は動脈硬化の中にも多く見られますし、過食等で腹部の脂肪にも多く蓄積しており、これが全身に回って各処で炎症が惹起されると、インスリン抵抗性が増えたり血管が老化したりしてしまいます。

 老化細胞を薬で取り除くことができるように設計した遺伝子改変ネズミでは、中年期からこの薬を飲ませておくと腹部の老化細胞がなくなり、これによって寿命が3割程度伸びがんによる死亡も低下することが分かりました。この薬剤を「senolytics」といい、今後の抗老化治療の標的になると思われます。

 また、老化細胞に特異的に発現する抗原としてSAGP(Senescence-associated Glycoprotein)が候補として考えられています。老化細胞が生きるためのサバイバルファクターになっている可能性が高く、現在、Senolysisのターゲットとして注目してSAGP老化細胞を標的としたワクチンを開発しています。

 老化細胞除去ワクチンによって抗体ができ老化細胞が除去されることによって、高齢マウスのフレイルの改善、脂肪老化や動脈硬化の改善が確認され、さらに早老マウスの寿命も延長することが出来ました。この老化細胞除去治療を臨床応用して社会実装していきたいと考えており、今回の学会でこれらの研究結果を発表させていただきます。

【講演2】Stay Homeのアンチエイジング     

堀江 重郎 理事長  
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授

 我々の細胞が老化してしまう大きな原因は活性酸素です。ミトコンドリアでエネルギーが産出される時に、必ず活性酸素が出ます。若い時はこれを消去できますが、老化とともにそれを除去する能力が低下し、除去できなかった活性酸素が体内の分子を酸化させて老化につながります。我々日本抗加齢医学会は20年間、この抗酸化物質の研究をしてきたといっても過言ではないかもしれません。

 今は唾液で身体の酸化度を調べることができます。これは非常に個人差が大きいです。酸化ストレスが関与する病態としては交感神経の緊張などによるメンタルの問題がありますが、他にも高血糖や肥満、喫煙、腎不全、肺の機能低下などが挙げられます。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大問題で話題となった「基礎疾患」という言葉があります。基礎疾患がある人は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいといわれていますが、これは酸化ストレスが上がっている状態です。

 この酸化ストレスを上げないためには、適度な運動や過食をせずポリフェノールなどの抗酸化食材を取り入れて食生活を豊かにすることが大事です。他にもストレスの解消や睡眠、瞑想、マインドフルネスなども大切な要素です。

 今回の新型コロナウイルスの問題では肺疾患がクローズアップされていますが、肺気腫や肺結核、嚢胞性肺感染症などの病態の背景には、悪玉の免疫細胞が増えることが分かってきています。その代表がMDSCといわれるものでこれが免疫細胞の働きを抑制します。MDSCが多いとウイルスが増えやすくなり、がんも転移しやすく、さらに酸化ストレスを高める一酸化窒素を放出して細胞を弱らせてしまいます。このMDSCの数や機能を減らすものとしては、ARTA、ビタミンD3、PDE5、5-FU等が挙げられます。

 今回の新型コロナウイルスの問題では、アメリカの研究で実に半数がストレスを感じているとワシントンポストが記事にしました。これは2009年の経済不況よりも高い数字です。 脅威には戦うか逃げるかしかありませんが、今回の新型コロナウイルスの問題では逃げるしか選択肢がありません。この逃げていく感情が、さらにストレスになって鬱にもつながってしまいます。

 セルフコンパッションという考え方があります。元々は仏教の教えで、他人のために何かをするのであれば、自分自身がまず安全で健康でなければならないという考え方です。これには、自分を非難しないこと(自分自身へのやさしさ)と自分に起こっていることはヒトにも起こっていると考えること(共通の人間性の認識)、感情的になることを避けること(マインドフルネス)の3つが大事になります。  

 細胞の染色体の端にテロメアというものがあります。細胞分裂のために短くなって最後にはなくなってしまいます。このテロメアの減少の下降線は女性よりも男性の方が急激で、男性の60歳と女性の72歳がほぼ同じとなっており、女性が長生きする1つの原因ではないかといわれています。

 ちなみに動脈硬化が進行している人はテロメアも短くなることが分かっています。例えば、前立腺がんの患者さんに対して食事の改善とストレスマネージメントによってテロメアが伸ばせたことも分かりました。テロメアを減らないようにするには他にも各種ホルモンの分泌維持や運動、瞑想が大事です。一方で、短くするのは喫煙や悲観的な考え方等です。ちなみに、セルフコンパッションが高い人は、テロメアが長いことも分かってきており、筋トレと同じように自分なりに高めることが可能です。

 さて、男塾というプロジェクトを始めました。男性がいかに活き活きと暮らしていけるかということをテーマに、毎月第3水曜日20時~からセミナーを行っています。ぜひご参加ください。

【詳細】
http://www.mens-health.jp/otoko-juku/

【講演3】第2回ヘルスケアベンチャー大賞(~アンチエイジングからイノベーションを~)の紹介 

イノベーション委員会事務局 福田 伸生氏  

 第2回ヘルスケアベンチャー大賞のファイナルが10月26日に日本橋のライフサイエンスハブで行われます。当日のファイナリストのプレゼンによって、大賞やその他の賞が決まります。主催は日本抗加齢協会、後援は三井不動産、読売新聞、Link-Jです。

 アンチエイジング分野におけるヘルスケア関連のビジネスプランやアイデアを広く募っており、例えば生活習慣病の予防や老化による疾病予防、高齢者の自立支援などが想定されます。また、モダリティーも創薬から遺伝子治療、再生医療、食品、化粧品、ヘルスケアIT等、幅広く応募していただければと思います。

 現在、ノミネートを募集中で7月3日(金)に締め切りです。大賞は副賞で100万円、学会賞には30万円。特に第1回から大きく変わったことは、個人も応募しやすいようにしたことで、個人の応募に関してはアイデア賞も新たに設けました。さらに、「認定スタートアップカンパニー」という認証を作り、この名称は対外的に使えるようになっています。

 審査基準は、「インベンション」「コマーシャライゼーション」「社会貢献」の3つの複合点で判断し、企業で5枠、個人で3枠を考えていますが、応募の状況次第ではこの枠が増える可能性もあります。

【講演4】COVID-19ワクチン開発の話題

森下 竜一 副理事長
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座教授

 コロナウイルス自体は通常の風邪の15%を占め、SARS、MERSが出るまではあまり脅威とはされていませんでした。新型コロナウイルスはこのコロナウイルスの1種ですが、感染が広がりやすいという特徴があり、すでに日本でも900名位の方がなくなられています。しかし、この数字は世界的には少なく、これまでの国の対策はそれなりに効果があったと思います。

 今回の新型コロナウイルスが厄介なことは発症前にウイルス量がピークを迎え、この時が一番感染力が高いことです。また、空気感染はしませんがエアロゾル感染があります。空気感染とエアロゾル感染は全く別で、口から唾が出るとそれがエアロゾルとなって離れたところまで漂って感染が起こります。これから夏を迎えるにあたって、クーラーをかけている部屋では空調でエアロゾル感染が起きやすくなるので注意が必要です。

 感染しても80%の人が無症状化軽症ですので、本人が気が付かずに他人に移してしまいます。また悪化するスピードが早いのも特徴です。自分で疑わしければ、まずCTを撮ったり抗原試験をするといいと思います。

 特に感染すると、3割の人に消化器症状である下痢が起こります。そのため、トイレでふたを開けたまま水を流すときにも感染が広がるケースが多発しており、トイレでの感染が多いと言われています。重症化のケースでは肺炎だけでなく、血管に疾患が出るケースが多く、心筋梗塞や脳梗塞で亡くなる方も多く出ています。

 重症化するとECMOを使いますが、このケースで致死率は50%になります。当初は致死率が全体では2~3%程度でインフルエンザ程度と思われましたが、徐々に高齢者での致死率が高いことが分かってきました。60歳以上で3.6%、70歳以上で8%、80歳以上で15%となっており、基礎疾患などの重症化リスクがあると倍くらいに上がります。

 人種別の感染力に関しての情報はまだわかっていませんが、医療環境が大事ではないかと考えられています。また、たくさんの論文が出ていますがプレプリントが多く、HP上から突然消えたりするケースも散見されます。また、ランセットのような信頼のおける医学雑誌でもすでに3つの論文が撤回されていますので、今の時点で全てをまともに受け取るのは危険です。メディアの方には、複数の方の意見や全体の流れを参考に判断していただければと思います。

 治療薬は、現在は適用拡大の研究が中心です。国内での第2波、第3派はそんなに心配ないと思いますが、本格的に海外との交流を戻した時の第2波が怖いと思います。また、インフルエンザが流行する時期には、例えば風邪で来院するとコロナに感染していることを前提に対応せざるを得ませんので医療崩壊を起こしやすいと考えられます。さらに、高温多湿地域でも流行していますので、夏でも安心はできません。

 第2期健康・医療戦略に明記されましたが、機能性表示食品に免疫機能の表示ができる可能性が高くなってきていますので注目していただきたいと思いますし、期待しています。

 さて、我々は大阪大学とアンジェスが中心となって国産の新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組んでいます。現在、世界でのワクチン開発はWHOの報告では130を超えており、そのうち10件が臨床試験に入っています。

 ワクチンには生ワクチンや不活化ワクチン等がありますが、我々が開発しているのは核酸ワクチンといわれるもので、アメリカのモデルナも同じものです。ちなみに、オックスフォード大学のものは、ウイルスベクターワクチンといわれるものです。

 これらの遺伝子ワクチンはウイルスの遺伝子情報が分かればすぐに開発に取り掛かれますので、早期の開発が可能です。昨年、アンジェスで開発した肝細胞増殖因子遺伝子治療薬「コラテジェン」が承認されましたが、これが安全性のベースとなっています。生産も大腸菌を培養して行いますので、大量生産が可能です。安全安心で、できるだけ効果のあるワクチンを作っていきたいと思っています。

 ワクチンにはADE(抗体依存性感染増強)という現象がおこります。これはどのタイプのワクチンでも一定数発生し、完全に排除する方法は見つかっていません。今後は、投与する対象を絞るか限定する必要があるかもしれません。また、有効性に関しては現時点では臨床試験がまだですので不明ですが、インフルエンザワクチン並みの40~50%を目指しています。また、第2世代のワクチン開発にも同時に着手しています。

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