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2025年度 第2回日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー (2025年12月17日)ダイジェスト

講演1: 老化と腎臓 – 変わる障害感受性

柳田 素子先生(京都大学大学院医学研究科腎臓内科学教授)

 腎機能の低下は「年齢のせい」と受け止められがちですが、腎臓の老化は単なる加齢現象ではなく、全身の老化や疾患リスクと深く関わっていることが明らかになってきています。
 慢性腎臓病(CKD)は患者数も多く、日本において極めて重要な健康課題の一つです。

出生時のネフロン数が決める腎機能低下の本質と日本人の特性

 腎臓の機能単位であるネフロンは、加齢に伴って数が減少し、糸球体数は若年期の約60%まで低下するとされています。一方で、1つのネフロンが担う機能、すなわちGFRそのものは、加齢によって大きく低下しないことが分かっています。つまり、年齢に伴う腎機能低下の主な要因は、ネフロンの機能低下ではなく、「有効に働く糸球体数の減少」にあると考えられます。
 さらに、ネフロン数には大きな個体差があり、出生時体重と相関し、出生後に増えることはありません。このため、生まれ持ったネフロン数が腎臓の基礎的な耐久力を左右すると考えています。日本人は比較的ネフロン数が少ない傾向にあり、平均は約60万個とされています。その結果、日本では成人の約5人に1人がCKDに該当するとされ、日本人が腎機能低下しやすい集団的特徴を有しているといえます。

腎臓を起点に考える老化の連鎖

 生物学的年齢という視点から、暦年齢が同じであっても老化の進み方は個人差があり、CKDは腎臓単独の疾患ではなく、心血管系をはじめとする他臓器の機能低下を連鎖的に引き起こす可能性があります。

 腎臓が回復しにくくなる要因として「三次リンパ組織」に焦点を当てました。本来リンパ節の存在しない臓器に、慢性炎症を背景として免疫組織が形成されることで、炎症が持続し、組織修復が妨げられる可能性があります。急性腎障害が完全に回復しない場合、この三次リンパ組織の形成を介して慢性腎臓病(CKD)へ移行する可能性が示されており、このメカニズムは最近明らかになった重要な知見です。現在、三次リンパ組織を標的とした治療薬の開発や、尿中グルタチオンなどのバイオマーカーを用いた診断法の研究が進められています。

早期介入の重要性

 一方で、腎機能の低下は必ずしも不可逆ではありません。血圧管理などの背景疾患への介入や、早期の医療介入によって改善が見られるケースも多くあります。健康診断などで腎機能の低下を指摘された段階から腎臓に関心を向け、必要に応じて医療につなげていくことが、早期介入への第一歩になり重要です。腎臓を起点に老化を捉える視点は、全身の将来を考えるうえで、今後ますます重要になるでしょう。

講演2:心臓の老化とその対策

東條 美奈子先生(北里大学医療衛生学部教授)

血管老化がもたらす循環器疾患のリスク

 血管は年齢を重ねるにつれて弾力性を失い、動脈硬化が進行しやすくなります。このような血管の老化は、心不全や不整脈といった循環器疾患の土台となります。老化そのものは避けられませんが、その進行の速さには生活習慣や基礎疾患が大きく影響します。
 血管老化の重要な要素としては血管内皮を覆う「グリコカリックス」です。グリコカリックスは血管内皮を保護するバリア構造で、血流の調整や炎症の抑制に関与します。この層が障害されると、脂質や炎症細胞が血管壁に侵入しやすくなり、動脈硬化が進行しやすくなります。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、脱水、酸化ストレスなどは、グリコカリックスを傷つける主な要因とされています。

進化する循環器疾患治療と個別化医療の展開

治療の面でも、近年は大きな進歩がみられます。これまで有効な治療が限られていた心不全、特にHFpEF(拡張障害型心不全)に対しても、ACE阻害薬やβ遮断薬に加え、新たな作用機序を持つ薬剤が登場しています。現在では、4~5種類の薬剤を適切に組み合わせることで、症状の改善や生活の質の向上が期待できるようになってきました。
 SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病治療薬として使用されてきましたが、心不全の発症や急性増悪を抑制する効果が示され、血糖値の改善を超えた多面的な作用が注目されています。さらに、他の病気への効果も期待されています。
 循環器疾患は男性に多いと思われがちですが、女性にも決して少なくありません。特に閉経前後ではホルモン環境の変化により心血管リスクが上昇し、動脈硬化に加えて肺高血圧症やタコツボ心筋症、QT延長症候群など、女性に多い循環器疾患がみられる傾向があります。また、現在は薬物療法だけでなく、カテーテル治療やデバイス治療、遺伝子診断を含む個別化医療も進展しています。

血管内皮環境を守る生活習慣と循環器疾患予防

 循環器疾患を予防するうえで、血管内皮環境を悪化させないことが非常に重要です。
 血圧、血糖、脂質を適切に管理することに加え、適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠といった基本的な生活習慣が、血管老化全体の進行を緩やかにします。
 運動習慣の確立、食生活の見直し、趣味を持ち家族や仲間と楽しむ時間を作ること、そして定期的な健康診断は、血管老化に早く気づき適切な介入につなげるための基本です。日常生活の積み重ねが、将来の循環器疾患の予防と治療の選択肢を広げていくと考えています。

講演3:腸の老化とその対策:腸内細菌代謝物に注目して

内藤 裕二先生(京都府立医科大学大学院生体免疫栄養学教授)

腸の不調を見逃さない ― ガットフレイルという新たな視点

 腸は単に消化吸収を担う臓器ではなく、免疫や代謝、さらには睡眠やメンタルヘルスにも深く関わる重要な臓器です。しかし実際には、便秘や下痢、腹部不快感といった腸の不調は「体質」や「年齢のせい」として見過ごされがちです。
 こうした中で、近年注目されているのが「ガットフレイル」という概念です。これは病気のある人だけを対象としたものではなく、健康に見える人や働き盛り世代にも当てはまる腸の虚弱状態を指します。
 実際の調査では、働く世代の約4割が何らかの消化器症状を抱えていることが分かっています。ガットフレイルのある人では、睡眠の質の低下や生活の質の低下がみられ、出勤していても十分なパフォーマンスを発揮できない、いわゆるプレゼンティーイズムが多い傾向にあります。一方で、腸の状態が良好な人ほど、睡眠や幸福感が保たれやすいことも示されています。

腸の老化を引き起こす要因と腸内細菌代謝物の重要性

 腸の老化の背景には、腸管バリア機能の低下や腸内細菌叢の変化があります。その大きな要因の一つが食物繊維の不足です。欧米では1日あたり約25gの食物繊維摂取が一般的であるのに対し、日本人の1日あたりの平均摂取量は約20gと少なく、しかも目標量にも達していないのが現状です。食物繊維が不足すると、腸内細菌はエネルギー源を失い、腸粘膜由来の成分を利用するようになり、結果として腸管バリアの破綻や慢性炎症につながる可能性があります。さらに注目しているのが、ポリフェノール由来の腸内細菌代謝物であるウロリチンAです。すべての人が産生できるわけではありませんが、抗炎症作用やミトファジー促進作用を通じて、腸の機能や全身の老化に影響を与える可能性が示されています。

日常生活の積み重ねが腸の老化対策につながる

 腸の老化は、特別な治療だけでなく、日常生活の積み重ねによって大きく左右されます。食物繊維やポリフェノールを意識した食事、適度な運動、十分な睡眠といった身近な行動が、ガットフレイルの予防や改善につながります。腸に目を向けることは、老化や慢性炎症、抗疲労作用を考えることにもつながり、誰にとっても重要な第一歩だと考えています。

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