2025年度 第3回日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー (2026年3月11日)ダイジェスト
- イベントレポート
- 2026年6月5日


吉村浩太郎先生は、近年の美容医療の急速な発展と、その先に広がる再生医療の可能性について講演した。日本では美容医療の施術件数が年々増加しており、特に手術を伴わない非外科的治療が主流となっている。顔の若返り治療や痩身、脱毛などの施術は広く普及し、美容医療はもはや特別なものではなく、多くの人にとって身近な選択肢となっている。一方で、市場の拡大に対して医療提供体制が追いつかない面もあり、美容医療は成熟期に入りつつあると指摘した。そのため近年は、単なる外見の改善だけでなく、「老化そのものにどう向き合うか」という、より本質的なテーマへと関心が移り始めているという。
講演では、老化の本質的な原因の一つとして「幹細胞の減少と機能低下」が挙げられた。私たちの体では日々細胞の新陳代謝が行われているが、その再生を支えているのが幹細胞である。しかし加齢や病気、放射線治療などの影響によって幹細胞は徐々に減少し、その働きも低下する。その結果、組織の修復能力が衰え、皮膚の老化だけでなく、全身の機能低下や疾患リスクの増加につながると考えられている。
こうした老化のメカニズムに対し、再生医療は幹細胞を補充したり活性化したりすることで、組織の再生能力を高めることを目指している。具体的には、自身の脂肪組織から採取した幹細胞を利用する治療に加え、幹細胞が分泌する成長因子やエクソソームなどの有効成分を活用する「セクレトーム療法」が注目されている。これらの技術は美容分野だけでなく、発毛、不妊治療、糖尿病、組織修復など幅広い領域への応用が期待されており、研究から臨床応用へと着実に進展している。
さらに、日本では再生医療に関する法整備が進み、比較的実用化しやすい環境が整っている一方、欧米では規制が厳しく、開発や普及のスピードに違いがあることも紹介された。こうした状況の中で、再生医療は「見た目を若返らせる医療」から、「身体機能を回復・維持する医療」へと発展しつつある。
吉村先生は、今後さらに低侵襲で安全性の高い技術が確立されれば、再生医療は一部の先進的な治療にとどまらず、多くの人が利用できる医療へと発展する可能性があると述べた。老化は避けられない現象と考えられてきたが、今後は積極的に介入し、健康寿命の延伸や生活の質(QOL)の向上を目指す時代へと移行していくことが期待される。

山岸昌一先生は、第26回日本抗加齢医学会総会のテーマである「人新世のアンチエイジング」を紹介し、人間活動が地球環境や社会に大きな影響を与える現代においては、単なる若返りではなく、持続可能な社会との調和の中で健康を考える必要があると述べた。そのためには、「食・運動・睡眠・美容」といった生活習慣を医療資源として科学的に捉え、予防から治療、生活支援までを包括的につなぐ統合医療の視点が重要であると強調した。
講演では、老化に深く関与する終末糖化産物(AGE)について詳しく解説した。AGEは高血糖状態の持続や食事、喫煙などによって体内に蓄積し、タンパク質の機能を変化させることで血管や骨、皮膚など全身の組織に悪影響を及ぼす。その結果、動脈硬化や糖尿病合併症、認知機能低下などの疾患リスクが高まるだけでなく、しわやたるみといった外見上の老化にも関与することが知られている。
また、「高血糖の記憶」という概念にも触れ、過去の高血糖状態が長期間にわたり将来の合併症リスクに影響を与えることから、早期からの血糖管理の重要性を指摘した。さらに、AGEは体内で生成されるだけでなく、加工食品や高温調理食品、喫煙などからも取り込まれ、腸内環境の悪化や慢性炎症を引き起こす可能性があるため、日常生活での予防が重要であると説明した。
近年はAGEの生成抑制や除去を目指す研究も進展しており、老化は単なる加齢現象ではなく、生活習慣によって大きく左右される「制御可能なプロセス」であることが明らかになりつつある。山岸先生は、日々の食事や生活習慣の選択が将来の健康や外見に直結する時代だからこそ、一人ひとりが主体的に健康管理に取り組むことが健康寿命の延伸とQOL向上につながると締めくくった。

阪井丘芳先生は、健康寿命の延伸を目指すうえで、口腔機能の維持が極めて重要であることを解説した。加齢に伴い、歯や顎骨、口の周囲の筋肉は徐々に衰え、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)機能が低下する。特に歯を失うと顎骨が痩せてしまい、食べる力が弱くなるだけでなく、消化器への負担増加や栄養状態の悪化にもつながる。こうした口腔機能の低下は単なる口の問題ではなく、全身の健康状態や生活の質に大きな影響を及ぼすため、日頃から口腔機能を維持することが健康長寿の鍵になると強調した。
講演では、口腔機能の衰えを意味する「オーラルフレイル」についても紹介された。舌や咀嚼筋の力が低下すると、食べられる量や食品の種類が減り、栄養不足を招きやすくなる。その結果、全身の筋肉量や筋力が低下するサルコペニアへとつながり、さらに身体機能が衰えるという悪循環が生じる。また、嚥下機能の低下は誤嚥(ごえん)を引き起こしやすくなり、高齢者の重要な健康課題である誤嚥性肺炎のリスクを高めることも指摘された。こうした変化を防ぐためには、症状が進行する前の早期発見と予防が重要であると述べた。
さらに、口腔機能は睡眠とも深く関係している。加齢などによって舌や口周囲の筋力が低下すると、気道が狭くなり、睡眠時無呼吸症候群の原因となる場合がある。睡眠中に呼吸が妨げられると、心血管系への負担が増すだけでなく、日中の眠気や集中力低下、疲労感にもつながる。歯科領域では、口腔内装置を活用した治療や口腔機能の改善によって気道を確保し、睡眠の質を向上させる取り組みが進められている。口の健康は「食べること」だけでなく、「よく眠ること」にも密接に関わっているのである。
阪井先生は、唾液の重要性についても説明した。加齢に伴う唾液分泌の低下はドライマウスを引き起こし、味覚障害や口腔内感染症、嚥下障害などさまざまな問題の原因となる。唾液には消化を助ける働きや口腔内を清潔に保つ働きがあるため、その機能維持は全身の健康にも直結する。近年では、唾液腺マッサージや口腔機能トレーニングに加え、抗菌・保湿機能を備えた新しい口腔ケア素材の活用も進んでいる。
講演を通じて示されたのは、アンチエイジングは特別な治療から始まるのではなく、「よく噛む」「口を動かす」「口腔内を清潔に保つ」「質の良い睡眠を確保する」といった日常の習慣から始まるということである。歯科と医科の連携が進むことで、口腔機能を起点とした健康づくりは今後さらに発展し、健康寿命の延伸と生活の質(QOL)の向上に大きく貢献することが期待される。
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