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人生100年時代の活力をつくる医学マガジン

2021年度第4回日本抗加齢医学会 WEBメディアセミナー

講演1:高齢者の心不全とその予防について

 1955年から平均寿命は延びており、2019年には男性81歳、女性87歳となっています。

 脳卒中が死因1位の時代もありましたが塩分摂取減少や禁煙により、脳卒中による死亡も減っています。65歳以上に多い死因はがんですが、75歳以上の死亡原因1位は循環器病です。平均寿命が延びた今、循環器病が長寿病になりました。循環器病の問題点は、予後が悪く介護を必要とし、医療費は6兆円に上ることです。

 心不全は寿命の前に心臓が疲弊してしまうことで、高血圧、心筋梗塞、狭心症などあらゆる心血管病の終着駅です。長期間にわたる負荷の蓄積により心不全を患いますが、心不全はがんと同様に4ステージがあり、A~Dの各ステージで予防することができます。ステージAの予防はやはり食事・運動・禁煙で、服薬不要なこの段階で予防することが推奨されます。

 なお、血圧分類に正常血圧、高値血圧が新たに設定されました。130mmHgが既に高値血圧なので、この時点から高血圧予防が必要となります。

2018年に脳卒中・循環器病対策基本法が成立し、2021年に循環器病対策推進計画が策定され、地方自治体を巻き込んでの予防啓発が可能になりました。医療者・患者・企業を結び、予防啓発をはじめステージDでの地域包括+多職種連携等の7つの事業を行う循環器協会を2021年5月に設立しました。心不全は危険な病気ですが、予防できます。応援をよろしくお願い致します。

講演2:変形性膝関節症治療のトピックス

 変形性膝関節症はレントゲンで見た際の進行具合でグレード0~4が設定されており、グレード2以上が罹患状態となります。40歳以上の女性では3人に1人、つまり推定1670万人、男性は860万人が罹患しており、これは国民病である2型糖尿病患者数に匹敵します。

 末期になると太腿と脛の間にある関節軟骨がすり減り、余分な骨が出来たり、滑膜炎により痛みが生じます。

 変形性膝関節症の要因としては、肥満、O脚・X脚、膝に負担の大きいスポーツ、太腿の筋肉衰弱などが挙げられます。

 治療法としては、保存療法、再生療法、手術療法があります。

 保存療法の1つ、運動はランニングよりも自転車、水中ウォーキング、水泳などが推奨されます。内服治療はNSAIDsがよく飲まれますが副作用に注意が必要です。グルコサミン・コンドロイチンはよく聞かれますが、日本整形外科学会では推奨していません。ヒアルロン酸は経口よりも関節内注入が推奨されています。

 再生治療は脂肪由来幹細胞移植とPRP療法に分類されます。PRP療法をさらに進化させたAPS治療は患者から採血した血液を遠心分離等の処理を行い膝に戻す療法です。抗炎症作用があり軟骨の生成を促進します。

 手術療法の1つ、人工関節置換術は病状が進行した場合の治療法で、人工関節を入れた後も不自由だと思われがちですが、小走りや正座も可能です。米国ではこの手術の1/3をロボットで行っており、日本でも今後ロボットによる手術が増えると思います。

 骨切術は骨を切ることによって、足の向きを変え、体重負荷のかかる箇所を変更します。

 最終的には日常生活への影響などの程度によって治療法の選択は様々です。主治医とよく相談して自分自身の人生設計に合った治療法を選択し、楽しい日常生活を送りましょう。

講演3:現代女性における妊孕性へのヘルスリテラシー~不妊症は加齢性疾患か?~

 妊孕性とは「妊娠しやすさ」のことですが、20-24歳の女性が全員妊娠できるとした場合の妊孕率を見ると40歳頃から妊孕性が下がります。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          卵子と精子の年齢を比較すると、卵子は女性が胎児の時から既に存在し新たに生産されないため年齢+1歳です。

 卵子は胎児の時に700万個あり、出生時に200万個、50歳時には1000個となり、加齢に伴い個数は減少していきます。

 ヘルスリテラシーとは情報を入手・理解・評価し健康を享受することですが、妊孕性リテラシーが低い為に妊娠機会や可能性を喪失している事例もあります。日本産婦人科学会ではタイミングを図って1年妊娠に至らない場合は不妊としています。体外受精でも40歳で出産に至るのは8%に過ぎないという事実をもっと知って挙児希望がある方は行動頂きたいです。

 2010年に世界79か国で実施されたカーディフ妊孕性知識尺度を用いた妊孕性リテラシー調査では日本は平均得点が34点で、人間開発指数の高い諸国において最下位でした。2015年に報告された同調査では、日本のスコアは53点と伸びましたが、人間開発指数の高い諸国の平均点である64点に及んでいません。

 この調査の対象者の情報源は66%がメディア(新聞・雑誌・TV・インターネット)であり、メディアが重要な位置を占めています。ヘルスリテラシー向上の為には、個人・ピアサポートによる啓発、医療者・学会による啓蒙、地方・国(政府)による政策のみならずメディアの方々のご協力も必要です。

講演4:本年のトピックス

 1年間メディアセミナーにお付き合いありがとうございます。本年開催しましたメディアセミナー、日本抗加齢医学会のイベント、COVID-19について振り返りたいと思います。

 第1回のメディアセミナーは東京大学医科学研究所 中西真先生より老化細胞除去薬について、第2回は同じく東京大学医科学研究所 石井健先生からCOVID-19ワクチン最前線に関してお話頂きました。熊本大学大学院 尾池雄一先生から心不全を防ぐRNA治療、山田秀和理事長からはエイジングクロックについて講演頂きました。第3回はCOVID-19で血栓症が話題となっていましたので内皮障害について、コロナ禍での女性医療、男性医療について提供しました。

 日本抗加齢協会と日本抗加齢医学会は10月29日には第3回ヘルスケアベンチャー大賞を開催し、<企業の部>大賞は膝痛のウェアラブルセンサー開発、<個人>アイディア賞はCエレガンスを用いて健康寿命を見える化するという技術が獲得しました。

 続いてCOVID-19について最新研究についてお伝えします。

 他国での感染者数推移を見ると時期的な感染者増減を繰り返していることから、ワクチン接種から暫く経つと感染予防効果が減少しているのではということがわかっています。

 また、患者数増加をAIシミュレーション分析プロジェクトが進んでいます。そのうちの1つ、「感染拡大・抑制シミュレーション」は将来的な感染症等の抑制に繋げることを目的にしています。接種後180日を目途としたブースター接種、ワクチンパスポートの導入、陽性者が増えた際の人流制限が効果的であると分析されています。

 東京での感染減少の要因が定量分析されていますが、様々な要因により感染は120日周期でピークと収束を繰り返していることが判明しています。偶然を排除できないものの、8月後半からの感染減少へ大きく貢献した可能性があるものとして、想定よりも低いウイルスの基本再生産数、周期、想定医療ひっ迫によるリスク回避行動が挙げられています。これらの分析により、今後の変異株に対し社会がどう行動すべきか情報提供できるのではと考えています。

 来年も引き続きWEB形式でセミナーを開催予定ですので、奮ってご参加頂ければと思います。

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