理事長からのご挨拶
健康寿命延伸と真の若返りへの挑戦
日本抗加齢医学会は、世界で最も超高齢社会が進んでいる日本で、9000人を超えるメンバーで組織されています。これは世界に例をみません。
今後25年で、アジアやヨーロッパの国々も急速に高齢化が進むでしょう。この大きな社会的変化は、老化に対する研究とその対応策の重要性を一層際立たせています。
最新では欧米では「Longevity Science」という表現が増えてきています。一方でアジアでは「抗加齢医学」が受け入れられてきました。漢字文化の問題もあり、老化問題は、それぞれの国の長い文化的背景があることから、一概に単純な扱いは注意が必要でしょう。
本学会では、老化を「病」と位置づけ、老化関連疾患の遅延と健康寿命の延伸を目指しています。国際疾病分類に老化が正式に認定されるまでの現実的な課題を理解しつつ(現在の国際疾病分類はICD-11)、予防医学に重点を置きながら、究極の目標である真の若返りという治療分野にも挑戦しています。
科学的根拠に基づき、学際的でありながら、実践を個別医療に展開していきます。基礎研究に基づく真の若返りについて、その定義を考え、科学の進歩を見据えることで、将来的には人類の大きな挑戦となるでしょう。
特に、エピジェネティッククロック(epigenetic clocks)を用いた生物学的年齢の逆転研究は、in vivoおよびin vitroでの試みを通じて、既に有望な成果を示しています。
抗加齢の治療法の開発においては、細胞老化の理解と同時に、個体老化を考慮した機能的側面や主観的な要素を含めた総合的老化時計の開発も重要です。細胞レベルだけでなく、フレイルなどの機能の問題や、さらに主観的なことも含んだ、Intrinsic Capacityが議論される時代になっています。Anti-aging Clinicやlongevity clinic では、DNA メチル化時計を用いて評価する時期に来ています。さらに実臨床的なomicsも含めた検査データーが必要となるでしょう。いよいよ、治療でのエンドポイントのための合老化時計を作る時期に来ていると言えます。この科学的進歩は、老化関連疾患の遅延と健康寿命の延伸という当会の目標に不可欠です。
種の固有の寿命の問題と老化は、重なりも多くありますが、分離も可能となりつつあります。epigenetics領域の研究の進歩に期待したいともいます。
さらに“若返り”の定義は現在、まだ決められているわけではありませんが、生物学的レベル、医学的レベル、擬実的レベルで考えるといいでしょう。また、暦年齢と生物学的年齢の再評価を通じて、従来から一歩踏み込んだ、高齢者の定義も見直す必要があると思います。
大阪万博で、学会がサポートしている大阪パビリオンでは、年は、暦年齢から生物学的年齢で考えようというコンセプトを提唱しています。このことは、WHOのageismへの取り組みに対する一つの答えと思います。
今日の研究の進歩と老化に関する理解を深めるために、私たちは世界中で産学連携を強化し、知識と経験を共有することが重要です。この分野の社会的な理解を深めるためには特に教育が重要です。
2024年中の日本抗加齢医学会の認定テキスト『アンチエイジング医学の基礎と臨床 第4版2023年6月発行』の英語版の発行は、世界中の医療従事者や研究者に向けて、私たちが培ってきた知見を広める一助となると期待しています。さらに、学会では、npj Agingという学術雑誌もパートナージャーナルとして支えており、いわゆるインパクトファクター(IF)も2024年5.1を示しています。
2025年の大阪万博や国際的なコンペティション「XPRIZE Healthspan」(ttps://www.xprize.org/home)の取り組みを通じて、私たちの成果を世界に示すと同時に、国際協力を促進し、抗加齢医学の最前線を共に推進していきたいと考えています。
最後に、longevity scienceの領域で、先行している日本の現状を多くの方々に提示することも我々の使命でしょう。
本学会は、会員の多くは、医師・歯科医師ですが、薬剤師、看護師、管理栄養士、理学療法士等を含む医療系国家資格保持者も多く参加しています。健康長寿を達成するには様々な医療現場において広くかかわっていくことも大切です。
また、学会認定プログラムも整備されており、試験合格後の学会認定専門医、学会認定指導士制度も確立しています。認定施設の制度も整備されてきました。
さらに認定委員会の企画する最新の老化科学を学べる講習会は、この領域のトップの方々から直接講義を受けられるため好評です。直接参加できない人のためのe-learningも充実しています。
年に一回の総会は会員の半数近くが参加するほど、会員にとって興味あるプログラム、演題が多いのも特徴です。総会での発表は多言語化を図りたいと思っています。
今後は、国内だけでなく、国外の方々も含めた、この領域のガイドラインなどの作成に積極的に関わって行く必要があります。
そのためにも、多くの皆さんの入会をお待ちしています。
2024年6月
一般社団法人日本抗加齢医学会
理事長
近畿大学アンチエイジングセンター
近畿大学医学部 客員教授
組織図
会員数推移
設立趣旨
2001年日本抗加齢研究会設立時には、すでに予見されていた超少子高齢化社会と老 人医療費の増大。 国民皆保険制度を有する我が国の福祉政策は、いずれその転換を迫 られるといった状況でありました。 そのような中、医師ならびに医生物研究者らが中 心となって設立した目的は、加齢現象や老化の研究が進む中、 老化の病的プロセスを 予防する抗加齢医学を積極的介入する方法を基礎医学的、臨床医学的に追求して実践 することにより、 生活者のQOL(Quality of Life)の向上を図る。 そして抗加齢医 療の提供により健康長寿を国民が享受し、老人医療費増加度の抑制、生産人口年齢の延 長、 労働力の確保といういわば国家戦略的な目的であります。 医学界ならびに社会 で認められるために、抗加齢医学に関する正確なデータを集積し、正しい情報を伝え、 科学的根拠・事実に基づいた医療としての確立を目指していくと同時に、人々に受け入 れられる医療となることを目指し活動を続けてまいります。
抗加齢(アンチエイジング)医学の独自性
1、健康寿命を延長するための予防医学・健康寿命を延伸する医学
抗加齢医学の研究は、出生から死亡に至るまでの様々な過程で生じる現象を科学的に 捉える上で、 非常に有意義でありその成果は生活習慣病をはじめとする様々な疾患を 予防し、ストレスや疲労、 免疫低下などの疾病発生促進因子を改善し、健康長寿を享 受することを目指す理論的・実践的科学であり、 これこそが抗加齢医学の定義であり ます。そして抗加齢医学的に重要なのは長寿の質です。 高齢者のQOL(Quality of Li fe)を向上には、アンバランスで病的な老化を早い段階から積極的に予防し、 健康寿 命を延長することにあります。
2、学祭的に捉える学問
抗加齢医学の独自性はこれまでの治療医学にみる縦割りの隔てを取り除き、多領域に わたる横断的、 集学的に研究することにより老化の関連性を把握できるにあります。 抗加齢医学の研究は、遺伝子や細胞レベルから動物やヒトの個体レベルまで幅広く、 生化学、生理学、 臨床医学など複数領域の医学にとどまらず、化学、物理学、農学、 薬学など他分野に係っています。 一方で実践は、栄養学、内分泌学を用いた補充療法 と運動・休養などの生活習慣の改善によって老化をどのようにコントロールできるかにあるのです。
3、生活者に積極的に行動変容を起こす医学
人は誰でも健康長寿を望んでいます。これまでの病気を治す医療から、老化による疾 病を予防し、健康寿命を延長することは、 人々が受け入れやすく、生活習慣の改善など 積極的な行動変容を起こす医学となりえます。
理事長 記事
■2023年6月10日 第23回日本抗加齢医学会総会
理事長提言 暦年齢から生物学的年齢へ
講演内容はこちら(PDF)(動画)から
■2022年6月18日 第22回日本抗加齢医学会総会
理事長提言 老化治療のための戦略を考える
講演内容はこちら(PDF)(動画)から
■2021年6月26日 第21回日本抗加齢医学会総会
理事長提言 次世代医療はさらに個別医療に。 個別医療を支えるのはゲノム情報
講演内容はこちら(PDF)(動画)から
■朝日新聞 Reライフ
・朝日新聞 2021年3月14日 朝刊 (朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)
・承諾番号 21-1201
■2020年9月26日 第20回日本抗加齢医学会総会
理事長提言 抗加齢医学の地平を開く
講演内容はこちら(PDF)(動画)から
■2020年3月30日 読売新聞朝刊(全国)10面
企画広告 免疫力をアップし、健康を維持!
掲載内容はこちら(PDF)から
■2019年6月14日 第19回日本抗加齢医学会総会
理事長提言 アンチエイジングのエビデンスを探そう
講演内容はこちら(PDF)から
■2018年5月25日 第18回日本抗加齢医学会総会
理事長提言 講演内容はこちら(PDF)から
■日本臨牀76 巻増刊号5 (2018年6月30日発行)
老年医学(上)-基礎・臨床研究の最新動向-
I.老年医学・老化研究の展望 に 「抗加齢医学と老年医学」が掲載されました。
掲載内容はこちら(PDF)から