アンチエイジング(抗加齢)ドック
身体はさまざまな組織・器官・臓器から構成されるが,それらが一様に老化するわけではない。個人差,部位による差がある。老化を促進する危険因子も人により異なる。30代後半から身体の一部に加齢による病的退行変化が生じ,それが疾患につながり,他の健常部にも悪影響を及ぼす。健康長寿の達成者である百寿者の調査結果を総括すると,百寿者は全身が均質にバランスよく老化していること,老化危険因子が少ないことがわかる。従って,アンチエイジングドックにより老化の弱点を早期に診断し,全体の調和をはかり,老化危険因子を是正することが健康長寿への王道となる1,2)(図1)。
抗加齢療法に入る前に老化の評価,すなわち老化の程度や老化を促進させる危険因子を評価する。アンチエイジングドックは人間ドック・健診の将来の方向を掲示するものである3)。通常の人間ドックや健診はがんや生活習慣病の予防と早期発見・治療に主眼を置くが,アンチエイジングドックでは病的老化の発見・予防・治療がこれに加わる。生活習慣病の多くは老化危険因子として位置付けられる。
検査項目~老化度と老化危険因子~
アンチエイジングドックを実践する医療機関が増加する一方,国民がその内容を十分理解しているとは言いがたい。これまでの数年間,医療機関がばらばらの基準でやってきたことも原因の一つである。基準に統一性をもたせ,国民に対し「アンチエイジングドックで何がわかるか」をより明確に訴えかける必要がある。
老化に関係する検査項目は老化度と老化危険因子の2つの範疇に分けられる。アンチエイジングドックでは,老化度を筋年齢・血管年齢・神経年齢・ホルモン年齢・骨年齢の5項目として評価する。また老化危険因子として免疫ストレス・酸化ストレス・糖化ストレス・心身ストレス・生活習慣の5項目についても評価する。老化度の検査結果を説明する際は,数値が「上がった下がった」「増えた減った」と説明するより,機能年齢として何歳平均に相当するかを示したほうが,受診者が理解しやすい。危険因子をスコア化して,どれが危険因子として大きな割合を占めているか提示できると,治療や指導に優先順位をつけやすい。
アンチエイジングを一語で表せば「機能年齢の老化予防,若返り」となる。全10項目のうち老化の弱点(最も機能年齢が高い項目)と最も大きな危険因子の2項目を是正することで,全体の8割は達成できる。これは「パイレーツの法則」の応用である。機能年齢の絶対評価法は現在のところ存在しない。相対評価であれば,簡便な方法は「特定のパラメータに関する日本人の加齢標準曲線を作成して,何歳レベルに相当するかを求める」手法である。機能年齢の目標値は実年齢の8割程度,検査値としては年齢平均値のプラス0.5 ~1.0SD(標準偏差)が妥当であろう。現在利用可能な代表的な測定方法,バイオマーカー,加齢標準曲線,オプティマル値についてはそれぞれの専門項目を参照のこと。
アンチエイジングドック運営を支援するソフトウェアについては,本学会や人間ドック学会会員からのヒアリング・議論を経て4~6),未来を見据えた支援システム(AAD Life WorksⓇ)が開発されている7)(図2)。大規模データの蓄積にきわめて有用である。
結果に基づいた指導
例えば,実年齢55歳男性の骨密度が60歳の人の平均的な骨密度に近い場合に骨年齢60歳と評価する。データベースと照合して機能年齢は算出できる。予防医学として一次予防に重点を置き,アンチエイジングドックの結果に基づいた生活習慣の改善指導(食育・体育・知育)を行う。さらに必要に応じて医学的治療(薬物医療・ホルモン補充療法・再生医療)を行う。指導においては動機付け・行動変容が重要であり,抗加齢専門医・指導士の裁量(指導技術・知識・熱意)が問われる。
仮説証明のためにデータを蓄積する意義
私は「機能年齢が最も老化した部位(老化の弱点)と最も大きな危険因子を早期に発見して是正すること,そして全身がバランスよく均質に老化すれば,平均寿命と健康寿命の差が減り,健康寿命が延伸できる」との仮説を立てている。アンチエイジングドックによる機能年齢と老化危険因子の評価,そして支援ソフトの使用による大規模データの集積は本仮説の実証のために重要な役割を果たすはずである。本システムの使用については,仮説検証を目的とした多施設参加型臨床研究に各自が参加する方式とした。
おわりに
アンチエイジングとは機能年齢の老化予防・若返りである。健康長寿の達成にはアンチエイジングドックにより機能年齢と危険因子の診断と早期介入が重要である。また,健康長寿を目指す実証のためには大規模データが必要である。アンチエイジングドックを実践する医療機関が増え,多くの国民に受診してもらうことを切に願っている。
(米井嘉一)
文献
1)米井嘉一:抗加齢医学入門 第3版.慶應義塾大学出版会,東京,2022.
2)吉川敏一 編:アンチエイジングドック.診断と治療社,東京,2007.
3)Yonei Y, Mizuno Y: The human dock of tomorrow: Annual health check-up for anti-aging. Ningen Dock 2005; 19: 5-8.
4)Yonei Y, Takabe W: Aging Assessment by Anti-Aging Medical Checkup. 総合健診 2015: 42: 459-64.
5)Yonei Y, Takabe W, et al: What does the Anti-Aging Medical Checkup show?: Data presentation. 総合健診 2017; 44: 600-5.
6)米井嘉一:実践と問題点―アンチエイジングドック.医学のあゆみ 2017;261:698-704.
7)米井嘉一:老化度の診断と治療.保健の科学 2022;64:585-90.
日本抗加齢医学会認定テキスト「アンチエイジング医学の基礎と臨床 第4版」 P326-328
アンチエイジングドッグ体験記
体験記:35歳女性 Vol.1 初診(問診・検査)編
体験記:35歳女性 Vol.2 コンサルテーション(酸化・抗酸化力)編
体験記:35歳女性 Vol.3 コンサルテーション(炎症ケアを中心に)編
体験記:35歳女性 Vol.4 コンサルテーション(エネルギー産生効率アップ)編